阪神タイガースは現在セ・リーグ4位(10月7日現在)。プレーオフ進出さえ怪しい真弓阪神を見て、“またあの頃に逆戻りするのでは”と心配する虎ファンは少なくないはずだ。その思いは、かつて阪神球団社長として「ダメ虎体質」にメスを入れた野崎勝義氏も抱いている。野崎氏が、「暗黒時代」と言われた1989年からの10年についてこう振り返る。
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私がタイガースに出向した当時(1996年)、阪神は長く低迷を続けていた時代でした。89年から10年間で、最下位が5回、Aクラスがたった1回。でも、当時のフロントはほとんど気にしていませんでした。私が出向してすぐ、久万俊二郎オーナー(去る9月9日に死去)にいわれた一言が、それを象徴していました。
「タイガースというても、まァ一言でいうたら(年商)100億円もない、ちっちゃい会社や。電鉄は3000億円や。強い、弱いとあんまり騒がんでええ」
久万さんという人は、根っからの真面目人間でした。時間があると難しい哲学書を読み、娯楽にはほとんど興味がない。当初は野球にもさほど興味を示していなかったと思います。甲子園球場という「ハード」を活用し、お客さんを呼んで阪神百貨店や電鉄の売り上げを上げるために必要なのが、タイガースという「ソフト」、そういう位置づけだったのでしょう。だから弱くてもまあええか、そう思っておられたようですね。
この「弱くてもええ。儲かってるから」という思いは、球団内に蔓延していました。あの頃は戦力補強などで他球団と争うより、内部での評価を重んじるという志向が第一でした。
※週刊ポスト2011年10月21日号