ロンドン五輪の女子マラソン代表に尾崎好美(30・第一生命)、重友梨佐(24・天満屋)、木崎良子(26・ダイハツ)の3人が選出された。選考会こそ禍根を残すことなく終えたが、日本陸連の不安は収まらない。代表選手がロンドンで惨敗するのではないか――。
日本陸連関係者はいう。
「昨年のテグ世界陸上では4位までをアフリカ勢が独占し、女子の勢力図も変わってきた。昨年秋以降のレースのタイムを並べると2時間23分23秒の重友は11位の記録です。2時間18分台が1人、19分台が4人もいる。メダルはおろか、入賞すら厳しい」
ロンドンのマラソンコースは、市の中心部を3周する周回コースである。狭い路地を走ったり、石畳があったり……と決してレース環境が良いとはいえない。
また気象条件も、従来の五輪とは異なる。8月のロンドンは平均気温17~18度と、夏の五輪としては暑さがない。旭化成陸上部監督で、ロス五輪で4位入賞した宗猛氏が解説する。
「日本人が得意とするのは気温と湿度が高く、スローペースのなかで体力を消耗していくという展開です。一方、ロンドンはスピードがものをいう大会となる。タフさよりも選手の持つ記録そのものが生きてくるでしょう。そういう意味で、2時間20分台を切る選手が誰もいないようでは厳しい」
アップダウンも激しいためある程度筋力のある選手が有利だ。それら条件を踏まえた上で、選考選手の中で最も適応するのは誰か。
宗氏が続ける。
「最も期待できるのは尾崎ですね。このような複雑なコースでは、経験豊富なことが有利になる。尾崎は遅咲きではありますが、ビッグレースに出走して結果を残している」
尾崎はベルリン世界陸上(2009年)では2位になった経験もある。また今回の五輪選考で揉まれたことで精神的に強くなったという。
「マラソンを知り尽くしているだけに、実力通りの走りができるのではないでしょうか。これは全選手にいえることですが、とにかく舞いあがらないことですね。怖いのは所属企業やマスコミが持ち上げ、自分が自分でなくなること。自分は凄いんだという方向に向かうと予想外の結果が待っている。五輪で走った先輩としてはこれだけはぜひ肝に銘じてもらいたいね」
北京では3選手中、完走が1人という無残な結末を迎えた。ロンドンに出走する3選手には“ロンドンの奇跡”を夢見る前に、まず、厳しい現実を直視することが求められる。
※週刊ポスト2012年3月30日号