国内

放射能避け岡山に移住女性「空港が近く海外脱出しやすい」

 東京電力福島第一原発事故から1年。事態は解決に向かっているとはいいがたく、いまだ故郷に戻れない人もたくさんいる。脱原発なのか続行なのか、国の方針が定まっていないだけでなく、実態がどうなっているかさえ国民は知ることができない。

 不透明な先行きのなか、子供への放射能の影響を心配し、安全な土地へ移住する子育て世代が相次いでいる。ノンフィクション・ライターの北尾トロさんはすでに移住生活を始めた家族たちに、その本音を尋ねて回った。

 * * *
 土曜の夜、午後9時45分発の深夜バスは、ほぼ満席だった。目的地である岡山県・津山への到着時間は早朝6時半。さらに電車に乗り換えて岡山市の金川駅で下車。服部夏生さん(38才)が家族と会うときのコースだ。平均月2回、夏生さんはバスを利用。有給などを使い、できるだけ長く滞在する。といっても3、4日だが。

「ぼくは深夜バスのヘビーユーザーですよ。新幹線の半額以下ですから、バスしかあり得ない(笑い)」(夏生さん)

 そうなのだ。バスは圧倒的に安く、夜中に走るので時間が効率よく使える。ぼくも、家族が松本に行ったら特急あずさではなく往復バス利用組になるだろう。

 しかし長距離はラクじゃない。横3席でリクライニングできるといっても、熟睡は困難で、微妙に疲れたカラダで津山に着いた。何もない。コンビニもファミレスも影も形もないのだ。夏生さんの苦労がしのばれる。

 金川駅からタクシーで10分。郊外というより山あいといいたくなるのどかな道路に、長女の詩子ちゃん(7才)と長男の樹クン(5才)が迎えに出てくれていた。案内され、妻の育代さん(40才)に挨拶する間も、子供たちが元気に走りまわる。

 服部家が移住した経緯は複雑。もともと原発が気になっていた育代さんは事故後すぐに夫の実家がある名古屋に逃れ、いったん戻った後もお母さんネットワークで情報をチェック。東京から離れるしかないと腹をくくっていた。

「瀬戸内の祝島や九州、島根、あと鳥取へは下見にも行きました。縁あって8月1日から津山に疎開して部屋を借りましたが、ノミがいた(笑い)。その後、将来的なことも考え、岡山市内に越してきたんです。いざというときは空港が近いので海外脱出もしやすいですし」(育代さん)

 育代さんは、個人と団体による組織『子どもたちを放射能から守る全国ネットワーク』のメンバーで、毎月のように東京や福島に足を運ぶため、利便性も確保したかった。

 また、岡山で長く暮らすためには中心部へのアクセスも大切になってくる。ただし、荷物は東京の持ち家に置きっぱなしなので、現状は移住者より避難者に近い。安全な地域へ脱出するのが先決で、あとは動きながら考えていこうというスタンスだ。

「私と子供たちが岡山にいて、ひとり東京に残った夫は寂しいし不便だし困ったなあと思っているわけです(笑い)」(育代さん)

 放射能による見えない影響を考えれば、東京で子育てするのは厳しいと夫婦間の意見は一致している。だが、会社員の夏生さんとしては、踏ん切りをつけるまで2年程度は猶予が欲しい。育代さんは2年なんて長すぎると思う。そのことではたびたびケンカもしている。

「東京は便利だし、仕事も好きみたいだし、わかるんですよ。でも、別れて暮らすのは不自然。いつまでこれをやるの、と」(育代さん)

 逃げるように東京を離れた後ろめたさみたいなものが育代さんにはある。本当にこれでいいのかと悩むこともしばしばだ。だからこそ、いつまでも東京生活を引きずって、後ろ向きな視点でいるのはつらい。ここで生きていくのだと思いたい。

※女性セブン2012年3月29日・4月5日号

関連キーワード

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン