ライフ

吉本隆明氏 岸田秀氏に「私の理論、そのうちわかるだろう」

「戦後最大の思想家」と呼ばれる巨星が87歳にして墜ちた。心理学者の岸田秀氏(78)が「吉本隆明」と過ごした時間を振り返る。

 * * *
 吉本さんの考え方に出会ったのは1970年代、40歳を過ぎてからでした。すべての著作を読んだわけではありませんが、『共同幻想論』や『言語にとって美とはなにか』に影響を受けました。
 
 国家や社会は確固たる現実的基盤の上に立っているのではなく、多くの人の共同幻想で成り立っている――吉本さんの共同幻想論に触れたとき、思わず「そうなんだよ!」と膝を打ちたくなるほど共感しました。
 
 かつて日本がアメリカを相手に起こした日米戦争にしても、日本人は共同幻想によって誰一人疑うことなく、じつに真剣に戦いました。しかし、戦争が終わるとその幻想はきれいに消え去り、誰もが「何をやっていたんだ」と我に返った。共同幻想で考えればストンと腑に落ちるのですが、当時、そんなことを考える人はいませんでした。国家を幻想という概念で捉える――独創的な理論ですね。
 
 10年以上前に一度だけ対談をしたことがあります。私の考え方を評価してくれまして、「大雑把だけど自分の頭で考えている」と仰っていただきました(笑い)。
 
 でも、100%意見が一致したわけではありません。考え方が食い違うこともあって、互いに歩み寄ることのない議論にもなりました。吉本さんは、その後どこかで「岸田さんは私の理論を理解していないが、そのうちわかるだろう」なんて書いていましたが、今となってはいい思い出です。

※週刊ポスト2012年4月6日号

関連キーワード

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン