アメリカのお掃除ロボット『ルンバ』が日本に上陸した時、部屋の広い欧米ならともかく、狭小な日本の住宅でこんな商品が必要とされるだろうか、と思った。
だが、意に反して、自動でお掃除してくれる機能は消費者に受け入れられた。今年はジャンル全体で25万台の需要が見込まれ、日本で1年間に販売される掃除機500万台の中で確固たる位置を占めつつある。
このジャンルにシャープが参入したのは今年6月。『ココロボ』と命名された製品は、一見他のお掃除ロボットと同じような形状だが、その機能はかなり異なっている。
開発責任者の阪本実雄(ランドリーシステム事業部事業部長)は、これまでも世間をあっといわせる製品を送り出してきた。2005年に出した冷蔵庫の「愛情ホット庫」は、冷蔵庫とは冷やすものという概念を飛び越えて、温かいものを保温するという画期的な機能で話題を集めた。
今回の開発でも阪本なりの考えがあった。
「目指したのはロボット家電。今回はたまたま掃除機だったが、違うジャンルにも取り入れたい。うちの事業部は洗濯機と掃除機が2本柱。しかし、これでは足下はまだ不安定。安泰には3本の柱が必要。それをこのロボット家電が担う。そういう考えでした」
ロボット家電というなら、機械的な機能だけではなくペットのような機能が加われば、面白くなると考えた。
「掃除をする前に声をかけると、本体を左右に振らせたら愛おしくなるはずだ」
阪本は、その開発を若手の箭竹(やたけ)麻美に託した。箭竹は、わくわくしながら仕事を進めた。この発想をアルゴリズムに取り入れるために数字化が必要だ。音声入力後、何秒後に左右にどのくらいの角度を動かすか、何秒間に何回動かすか――。技術者とともにイメージと言葉、数字をつきあわせる日々が続いた。
阪本は、箭竹が開発を進める新しいアルゴリズムを「ココロエンジン」と命名した。
「声をかけたら返事をする。しかも、その返事を毎回変えたらええ」
「掃除機能は妥協するな。いや、どこにも負けることは許されない」
「空気清浄機能のプラズマクラスターイオンも搭載しよう。会話できて空気もきれいにする。この家電でまさに“家庭の空気を変える”んや」
会話ができて無線LANを搭載して会話ができるロボット家電をシャープが商品化する。この情報が業界に伝わるとすぐさま注文が殺到した。
「何か良いアイデアがないやろか――と思う時は、原点に立ち返り、家電の本質は何であるかを意識する。そうすれば自然と考えがまとまってくる」
※週刊ポスト2012年7月6日号