芸能

世界一日本人ゲーマー「勝負事は一直線に勝ちにいってもダメ」

プロ格闘ゲーマーの梅原大吾さんが語る勝負哲学

“世界一長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー”としてギネスにも認定されているプロ格闘ゲーマーの梅原大吾さん(31才)。日本人で初のプロ・ゲーマーとなり、世界一の称号を獲得した。このほど『勝ち続ける意志力』(小学館)を上梓した彼に、トップでいるための“勝負哲学”について聞いた。

――梅原さんが、粘り強くストイックにゲームに打ち込めるわけは?
梅原:ぼくってゲーム以外ではほんとは怠け者なんですよ。その意識があるからこそ、厳しく自分を縛るというか、好きなことに対してはその分、まじめにできるのかもしれないですね。

――ゲームを通して人生に活かせる“勝負哲学”を見出していますが、もともとそういう考えを持っていたのでしょうか?
梅原:考えたり分析したりするのは子供の頃から好きでしたけど、ゲームセンターという、年齢も生い立ちも何もかも違う人が一斉に集まって遊ぶ所で、いろんな勝負をしてきたからこそ、ある種の勝負哲学のようなものを学べたと思っています。自分がもし普通の人生を歩んでいたら、そういう感覚は持てなかったんじゃないかなと思います。

――“勝負事”を通して発見したことというのは?
梅原:それに頼るかどうかは別として、ゲームの勝負では、どのような心理状態の相手とやるのが自分にとっていちばん楽なのかを考えるんですね。すごく怖がっている相手なのか、怒ってる相手なのか、焦ってる相手なのかと。どのようなプレーがどういう相手に心理的な影響を与えるのかということもいろいろと試すんです。

 ゲームも、長く勝ち続けるコツは相手に“そこそこいい思いをさせてやる”ってことなんですよね。極端な話、あえて攻撃を受けてあげることで、一見いい勝負に見せておきながら、最後は自分が勝つという展開を作ったり。そういうのは経験ですよね。真剣に勝負をしている中に“遊びの要素”をいれることって、難しいことだけどできるんですよ。それはゲームに限らずいえることで、ただ一直線に勝ちに行ったからといって結果が出るものじゃないんです。

――著書で“99.9%の人は勝ち続けられない”といっているその意味は?
梅原:これはかなりハードルを上げたいいかたをしています。大した努力をしなくても、生まれ持った才能や要領のよさだけで常に勝つ側にいる人たちもいます。でも、そのなかでも、トップであり続けるには、才能のうえにさらに努力や心構えが重要になってくる。“99.9%の人は勝ち続けられない”というのはそういうことで、何かひとつの長所、ひとつの強みで一点突破できるほど、トップであり続けるのは容易ではありません。

 じゃあ、自分がずっとトップであり続けられた秘訣というのは何かというと、やったことのないゲームを始めるときに、過去の自分の記録や大会での結果を全部忘れることなんですよ。いまの自分だけで勝負するんです。あるゲームで勝ってた人が、別の新しいゲームを始めたときに「なんだ大してうまくないじゃん」っていわれて、世間の目に負けてしまうことがよくある。そういう意味では、世間の目に負けちゃう人が99.9%なんですよ。

――世間の目に負けないのはなかなか難しいですが、秘訣はなんですか?
梅原:大げさかもしれないけど、自分の場合はその目に負けたら、人生を自分で決めて生きていない気がしちゃうんですよね。本当はこれをやりたい、頑張りたいって思っているのに世間のプレッシャーに負けてやめちゃったら、他人に人生を決められてるみたいですごく気持ちが悪い。それに、最初は多くの人間がバカにしてても、負けずにやっていると半分くらいの人は味方になりますね。別に味方につけようと思ってやってるわけじゃないけれども、本当に頑張ってる人には、それなりに評価はついてくるんです。

――挫折も経験されていますが、スランプの脱出法のようなものはありますか?
梅原:スランプというか、努力のわりに結果が出ない時期は誰にでもあると思います。自分の場合は、そこで気持ちを切り替えることで脱出を図ってきました。普通は一直線に目標に向かっていく努力の仕方をするわけですよね。でも、なかなか思うような結果が出なくて前に進めないときに、いったんそのゴールを変えちゃうんですよ。

 例えば自分が料理人で、人を感動させる料理を作りたいと思ったとします。最初は当然、味を追及しますよね。でも、他の人の反応が、自分が期待しているものじゃないと分かったら、いったん視点を変えて、今度は盛り付けにこだわってみようとか、食べたことのない味を提供してみようとか、そういうことを考える。それを妥協と捉える人は、本当の努力も挫折も経験したことがない人でしょう。走り続けるためにゴールを変えるというのは、どの世界の人にも当てはまる重要な考え方だと思います。

――自分の弱点はどんなところですか?
梅原:協調性がないところは、弱点かもしれないですね。人といっしょに何かをやることが苦手なんですよね。それで人に迷惑がかかること以前に自分が疲れちゃうというか。でも、弱点というのは同時に個性であり、才能でもあります。自分の弱点を発見したとき、それは本当に弱みでしかないのか、よくよく考えるようにはしています。

――では、最大の武器は?
梅原:どこまでも頑張れるということがぼくの武器だと思っていますが、最近それにプラスして気づいたのは、ひとりで頑張れるというところです。あいつも頑張ってるから俺もっていう頑張りかたができる人は多いと思うんです。でも勝負の世界というのは、どこかで差をつける必要があるんですよね。同じ時間を使い、同じような方法で頑張ってたら、その中でいちばん才能がある人が勝つだけの話なんで。ひとりで頑張れるっていうのが、実は結構難しいことで、それを続けることが大事なのかなと思っています。

【梅原大吾(うめはら・だいご)】
1981年5月19日、青森県生まれ。日本人で初めて“プロ・ゲーマー”という職種を築いたプロ格闘ゲーマー。14才で日本一、17才にして世界一に。一時期、ゲームを辞めて飛び込んだ麻雀の世界でも3年間でトップレベルに。ゲーム界復帰後、2010年にアメリカの企業とプロ契約を結ぶ。同年“世界で最も長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー”としてギネス認定。“背水の逆転劇”と呼ばれる試合の動画再生回数は、全世界で2000万回を超える。

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン