グラビア

おでんを肴に 芸妓はんや舞妓はんも訪れる古都の角打ち

歴史が詰まった圧倒的な空気感が立ち飲みの最高のおばんざいに

 京都庶民の台所・錦市場の西の端が高倉通。そこからわずか十数秒北へ上ったところで、いつも変わらぬ姿の『松川酒店』が待っている。夕暮れ時になると、朝から続いていた市場の賑わいをごく自然に引き継ぐように、幸せ顔のサラリーマンたちがこの立ち飲みの店に集まり始める。

 入り口から奥まで続く通し土間。片側に並ぶ座敷。そして明り採りと通気を兼ねた風流な坪庭。黒く煤けた姿で建物を支える極太の梁…。こんないかにもの佇まいを見せる京都の古い商家の主人は、5代目となる松川禮三さん(76)。

「酒屋としては明治の初期に初代・宗二が始めたと聞いています。大正7年に少し北の三条下がるのあたりからこの場所に店が移って来たんですがね。聞くところによると、この建物、優に築120年は超えとるらしいですわ」

 40~50代の3人組が胸を張るようにして話してくれた。
「この店は外から見ても魅力的だけど、中に入ると、これがまた何年古都の時間を見て来たのって聞きたくなるほど圧倒的な空気感に包まれるんです。ぎゅう詰めの歴史をおばんざいに、こんな空間で立ち飲みができる幸せを感じて、もう4年以上通ってます。こういう気持ちで飲みに来る人、多いと思うけど」

「この雰囲気のなかで、酒屋値段でうまい酒が飲めるってだけで幸せでしょう。そしてこの空気にしっくり染み込む酒を去年の暮れに見つけました。ビールも日本酒ももちろんいいんだけど、焼酎ハイボールの甘くない口当たりが、いちばんぴったりくるんですよね」

 酒棚、カウンター、テーブル代わりに重ねられたビールケースが絶妙にレイアウトされた玄関を兼ねた土間が、メインの幸せ立ち飲みスペース。

 だが、あるとき、その幸せが消えてしまう危機があった。
「もう30年前になりますかねえ。父・栄太郎の時代に、立ち飲みじゃお客さんに悪いからと、店の左奥側に腰掛けて飲めるバー形式の部屋をこしらえたんです。でも、そっちに行くお客さんが少なくてね。結局、立ち飲みはそのまま現在に続いていて、バーではおでん鍋が1年中湯気を立てているだけです」

関連記事

トピックス

伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
総理といえど有力な対立候補が立てば大きく票を減らしそうな状況(時事通信フォト)
【闇パーティー疑惑に説明ゼロ】岸田文雄・首相、選挙地盤は強固でも“有力対立候補が立てば大きく票を減らしそう”な状況
週刊ポスト
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン