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【同業者が選ぶゴッドハンド医師:消化器編】食道がんの名医

「神の手(ゴッドハンド)」を持つ天才外科医は誰なのか。それを正確に知るのは、同業者である外科医だけだ。今回【消化器外科医】について、医師たちが選ぶドクターズ・ドクターを紹介する。

 日本で最初に「ゴッドハンド」と呼ばれた外科手術の名手、中山恒明氏(故人、東京女子医大消化器病センター創立者)に師事した喜多村陽一・東京女子医大消化器病センター教授は、こう解説する。

「消化器外科の場合、10年も手術に携わると、ある程度の水準を維持できます。その上で症例数を積み重ねた医師が名医といえます」

 大阪市立大学大学院医学研究科消化器外科の大杉治司教授は症例数、経験とも抜群の外科医だ。食道がんの名医として名高い。特に、胸腔鏡手術の名手で、数多くの手術をこなしてきた。症例数は開胸手術が累積600例、胸腔鏡も合わせれば1000例は下らない。10数名しかいない日本内視鏡外科学会の食道がんの根治術の資格を得た医師の一人でもある。

「食道がんの手術は、がんの中でも最も大がかりで、有効性も高い。手術症例が多い施設ほど、在院死亡率が低く成績がいい傾向があります」(大杉教授)

 日本の食道がん手術は欧米と比べると精密で、技術レベルも高い。そのため、0~1期の食道がん5年生存率は70%、2期で50~60%と欧米の2倍だ。

 注目すべきは、胸腔鏡手術の精度が向上し、リンパ節転移のあった患者の生存率が20%近く上がっていること。

「私自身、胸腔鏡技術が磨かれることで、郭清すべきリンパ節を的確に処理できるようになった。出血が少なく、手術が短時間で終わり、合併症も減り、安全性が高い。それが生存率向上に役立ったと思います」(大杉教授)

 名医の条件はそれだけではない。

「がん患者さんの多くは糖尿病や高血圧、動脈硬化などの持病を抱えている人が多い。手術をしたとしても、術後様々な合併症が現われる。生死を分けるのは術後のトラブルの有無です。各科と連携できる総合力を持つのが名医のあるべき姿でしょう」(前出・喜多村教授)

 消化器外科の場合、手術技術が重視される心臓外科医とはおのずから違う。技術だけではなく、患者の年齢や健康状態を総合的に見ながら、術後の管理をきちんとしていける組織力が重要だという。

※週刊ポスト2012年9月14日号

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