中耳腔内にできた上皮の塊が周囲の骨を溶かす真珠腫性中耳炎と、鼓膜が中耳の内側にくっつく癒着性中耳炎は、手術しても再発を繰り返すことが多い。
これら難治性中耳炎の手術で取り除かれた粘膜の代わりに、患者の鼻の粘膜から作った細胞シートを貼り付ける治療法が開発された。動物実験での効果が検証され、現在、ヒトを対象とする臨床研究に向けて準備が進んでいる。
粘膜再生治療研究を行なっている東京慈恵会医科大学附属病院耳鼻咽喉科の小島博己准教授に話を聞いた。
「真珠腫性中耳炎と癒着性中耳炎は手術しか治療法がなく、手術しても真珠腫では10~20%、癒着性では50%程度再発します。放置すると耳だれや聴力の低下、めまいや顔面神経麻痺などの症状が出ます。中耳の粘膜が剥がれ粘膜が再生しないと、鼓膜のへこみや癒着がおこり再発するので、粘膜のない場所に細胞シートを貼り、粘膜を再生すれば再発が防げるのではないかと研究を始めました」
まずはウサギで実験を行なった。ウサギの鼻から粘膜を採取して培養し、細胞シートを作る。その後、耳の粘膜を傷害した群と、シートを貼った群、正常な群の3つを比較した。粘膜を傷害した群は時間が経つにつれて、骨が増殖して正常なウサギに比べ内耳腔内の空間が狭くなった。
細胞シートを貼ったウサギは、正常なウサギの内耳内とほとんど変わらない大きさが保たれていることが確認された。この研究により、8週間経過しても粘膜が正常に機能していることが実証された。
(取材・構成/岩城レイ子)
※週刊ポスト2012年9月14日号