秋の高級食材と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、キノコの王様「松茸」。最近は外食店でも驚くほどリーズナブルな価格で味わえるようになった。以下は8月後半から松茸メニューを充実させている店舗情報の一例である。
○ホテルニューオータニ「KATO’s DINING&BAR」
・松茸づくしの御膳「秋の味覚と松茸」(1人4800円)
○パン パシフィック 横浜ベイホテル東急「クイーン・アリス」
・特別ディナーメニュー「秋の収穫祭(松茸のスープなどのコース料理)」(1人1万2600円)
○ロイヤルホールディングス「天丼てんや」
・「松茸天丼」(780円)、単品の松茸(2切れで200円)
○すかいらーくグループ「夢庵」
・「松茸 味わいせいろ御飯膳」(1206円)※9月13日から販売
コース料理で並ぶと松茸自体の価値は分かりづらいが、「てんや」の松茸天ぷらに至っては、1切れで100円という“価格破壊”ぶりだ。なぜ、ここまで低価格で松茸が提供できるのだろうか。都内で割烹料理店を営む店主がいう。
「いま出回っている松茸は中国産の輸入モノがほとんど。値段は小ぶりのSSサイズなら1キロ(約40本入り)5000円以下のものもあります。先日、同じサイズの北海道産もあったので値段を見たら、わずか5~6本で2万5000円もしていました(苦笑い)。国産の価格ではいくら大量仕入れをしても、とても外食チェーン店では出せない代物でしょう」
林野庁調べの「平成22年の主要な特用林産物の生産動向」によると、国産松茸の産地は長野・岩手・石川・京都・和歌山などで生産量の合計は140トン。一方、輸入モノは中国ほかカナダ、米国、モロッコ、メキシコなど供給地は全世界に及ぶ。輸入量は2044トンで、実に94%が輸入に頼っている状況だ。やはり松茸は量の少ない国産だからこそ高級なのである。
では、肝心の味については国産と輸入モノで違うのだろうか。
「中国産でも品質は年々良くなっていますが、いかんせん山で採取してから集積し、仕分け後に検疫にかけて日本へ送るまで2週間はかかってしまいます。その間に松茸の持つ独特な香りと水分が抜けてしまうんです」(前出の店主)
松茸本来の風味が失われてしまえば、それこそ「味しめじ」で他のキノコ類と変わらなくなってしまわないか。店主が続ける。
「網で焼いたり天ぷらにしたりするなど、そのまま食べると味のパンチが物足りない気はしますが、他の具材と一緒に細かくして土瓶蒸しや松茸ご飯に入れると良いダシも出ます。私は以前勤めていた和食店で、濃縮の『松茸エッセンス』を数滴垂らしてわざと香りをつけていた経験があります。でも、やはり料理は素材の味を生かして楽しみたいですよね」
価格に左右されず、自分の舌で食欲の秋を堪能したいところだ。