西川文二氏は、1957年生まれ。主宰するCan! Do! Pet Dog Schoolで科学的な理論に基づく犬のしつけを指導している。その西川氏が、犬が首をかしげるワケを解説する。
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え~、落語に、「茶金」なるお噺がございまして。
「茶金」とは、とある茶器の鑑定の名人の通称。彼が器を手に取って見ただけで、その器の値打ちが上がる。まして、「はてな」と首をかしげるとなんと百両、もう一回首をかしげると二百両もの値打ちがついちまう、っていう。
あるとき、「茶金」が茶屋でひと休みしてるところに、借金まみれの八っつぁんが遭遇。様子を見てると、安そうな茶碗を手にして、「茶金」が「はてな」と首をかしげた。それも6度もだ。かしげた理由は、お茶がどこからか漏れていたから。ただそれだけ。
さぁ大変。事情を知らない八っつぁんは、その茶碗をとんでもなく値打ちのあるものと勘違い……ってな所から噺は進む。
首をかしげる姿を見て勘違いしちまう。これ、落語の世界だけってわけじゃぁ、ないんですな。飼い主にもよくある。うちのコ私の言うことがわかるんですのよ、だって首をかしげて、私の言っていることを、一生懸命考えているんですもの、ってな具合に、ですな。
でも、これ「はてな?」ってぇ思案をしてるわけじゃぁない。それ以前のお噺。じゃぁ、何やってんだってことになるわけだ。実はこれ、音源の位置を特定しようとしている。耳が左右についてる動物ってぇのは、音の出所を特定しようとすると、どちらかの耳を音源の方向に向けちまう。それが常ってもん。
その意味不明な音はどこから出ているの? ってな具合に、片方の耳を音源に向ける。するってぇと、あの「はてな」って首をかしげているような姿になっちまう。ただそれだけのことなんですな。
※週刊ポスト2012年10月12日号