ビジネス

ギリシャがユーロ離脱なら「クレタは独立するよ」と現地住民

 資産運用や人生設計についての多数の著書を持つ作家・橘玲氏が、世界経済の見えない構造的問題を読み解くマネーポストの連載「セカイの仕組み」。債務危機で揺れるギリシアの国民は何を考えているのか。実際に現地を訪れた橘氏はこう解説している。

 * * *
 ギリシアの南端に位置するクレタ島はエーゲ海ではもっとも大きな島で、牛頭人身の怪物ミノタウロスが閉じ込められていた迷宮クノッソス宮殿の遺跡で知られる。イラクリオはクレタ島最大の都市で、観光拠点でもある。

 クレタはギリシア文明発祥の地とされ、紀元前3000年頃には文明が起こり、紀元前18世紀~紀元前15世紀に黄金期を迎え、各地に壮麗な宮殿が建てられた。イラクリオの考古学博物館には、クレタ(ミノア)文明の貴重な出土品が展示されている。

 その考古学博物館の手前に小さな広場があり、まわりに瀟洒なカフェが並んでいる。「ミソス」という地ビールを飲みながら、カフェのオーナーに、ギリシアはユーロから離脱するのか訊いてみた。

「バカバカしい。そんなことして、いったいどうなるっていうんだい?」ちょっと肩をすくめて、オーナーはいった。「もしギリシアがユーロから離脱するんなら、クレタはギリシアから独立するよ」

 ギリシアでは5月の総選挙で、EU(欧州連合)主導の緊縮財政路線を進めてきた与党連合が過半数を割り込み、共産党や急進左翼連合などの左翼政党と、極右政党「黄金の夜明け」が大きく票を伸ばした。だがどの政党も組閣に失敗したため、6月にふたたび総選挙を行なうことになったのだ。

 日本のメディアは、この選挙で反EUの連立政権が生まれれば、ギリシアはユーロを離脱して大混乱になると報じていた。欧米の論調も、「ギリシアのユーロ離脱の可能性は3分の1以上」と悲観論一色だった。

 再選挙後の混乱を恐れて、ギリシアじゅうの銀行から預金が引き出されていた。もしユーロから離脱して旧通貨のドラクマに戻れば、その価値は3割から5割減価するといわれていた。だったら、預金封鎖の前にユーロ紙幣をタンス預金しておこうと誰もが考えたのだ。その結果、財政危機が発覚した2009年末からわずか2年で、ギリシア国内の銀行預金は20パーセント(約5兆円)も流出した。

 そんな「混乱」のなか、私はクレタ島にいた。だがイラクリオは平穏そのもので、カフェのオーナーは、「デモやストの報道のせいで観光客が減ってさんざんな目にあった」と愚痴っていたが、それでもまだ余裕はありそうだ。

 夏のクレタには、ヨーロッパじゅうから観光客が押し寄せてくる。夏休み前だというのに、ミラノからの直行便は家族連れで満席で、カフェやレストランはどこも観光客で賑わっていた。イラクリオは、ギリシアでもっともゆたかな町なのだ。

 ギリシアの最大の富は、美しい海と抜けるような青い空、そして古代ギリシア文明の遺産だ。この3つを独占するエーゲ海の島々は、春から秋にかけての観光シーズンの集客だけで経済が回っている。彼らにとって、ユーロ離脱になにひとつメリットはないのだ。

(連載「セカイの仕組み」より抜粋)

※マネーポスト2012年秋号

関連記事

トピックス

結婚生活に終わりを告げた羽生結弦(SNSより)
【全文公開】羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんが地元ローカル番組に生出演 “結婚していた3か間”については口を閉ざすも、再出演は快諾
女性セブン
「二時間だけのバカンス」のMV監督は椎名のパートナー
「ヒカルちゃん、ずりぃよ」宇多田ヒカルと椎名林檎がテレビ初共演 同期デビューでプライベートでも深いつきあいの歌姫2人の交友録
女性セブン
NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン