“悔いのない葬儀”ってなんだろう?――「悔いのない葬儀とは、故人のことを思い、心を尽くして見送ること。“いいお別れ”は、家族にとって、故人亡き後の生きる支えにもなると思うんです。でも、そういった葬儀をするには、亡くなってから葬儀を行うまでの時間があまりにも短い……」と話すのは、元葬儀社の社員で、『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊)の著者・奥山晶子さんだ。
突然訪れる不幸。しかし喪主には悲しみに浸っている時間はない。葬儀社はいろいろなことを「早く決めろ」と急かすし、不備があれば口うるさい親族からダメ出しも出る。
「せめて、故人がどんな葬儀を望んでいたのかだけでも生前に聞いておけるといいですよね。家族だけで見送ってほしいのか、友人をたくさん呼んでほしいのか、祭壇を好きな花で飾りたいのか。親が病気になってからでは聞きにくいと思いますので、元気なうちにそれとなく聞いておきたいものです」(奥山さん)
葬儀の現場でもここ数年、変化があるという。日比谷花壇の葬儀プロデューサー・金澤和央さんは、次のように話す。
「ここ1年ほどの当社の傾向を見ますと、葬儀を行わず家族だけが火葬場でお別れをする『直葬』の割合が19%、家族、親戚、身近な友人のみで葬儀をする『家族葬』は57%。ひと昔前まで一般的だった50名を超える一般葬(21%)や200名を超える大型葬(3%)を大きく上回っています」
奥山さんは、こうした傾向について、「特に都市部で人同士のつながりが希薄になったことに加え、故人が高齢の場合は友人がすでに鬼籍に入っていたり、社会的な人脈が途絶えていたりと、会葬者が少なくなっているという背景があります」と解説する。
ただし、地方にいけば今でも“隣組”の習わしが残っていたり、親戚、隣近所が一緒になってお見送りする昔ながらの葬儀が多数派。地域によって葬儀スタイルの“スタンダード”は大きく異なるようだ。
全体的に葬儀の地味化=“地味葬”が進む一因には、前述のように、故人の死後、時間も気持ちの余裕もないなかで、葬儀の段取りを決めなくてはいけない状況も関係しているのかもしれない。
「多くの人は身内の葬儀に出るのは人生で数回でしょう。葬儀には何にどのくらいの費用がかかるのかわからないという不安が、直葬などシンプルな葬儀様式を選ぶ流れを作っているということもあると思います」(奥山さん)
※女性セブン2012年11月15日号