コンビニエンスストアを頻繁に訪れる人ならお気づきだろうが、近年、ストロー付きのチルド(冷蔵)カップ飲料のラインアップが増え、中でもコーヒーが棚を独占している。
スターバックスやタリーズ、ドトールなどNB(ナショナルブランド)の“味”も200円前後で続々と登場し、「専門店のコーヒーがコンビニ価格で気軽に買えるのがうれしい」(30代女性)という消費者の潜在ニーズを汲み取ることに成功したといえる。
その勢いは数字を見ても明らかだ。民間調査会社や飲料メーカーの話を総合すると、チルドカップ飲料市場全体の規模は、リーマン・ショック後の消費不況で一時売り上げを落としたものの、2010年から再び伸長。約4700億円に膨らんだ市場のうち、野菜飲料や乳酸菌飲料を除いたコーヒー単体の割合は70%超を占めている。
だが、さらに内情を見ていくと、飲料メーカーや乳業メーカーの覇権争いが入り乱れ、必ずしもNBに追い風が吹いているとは言い難い。飲料総研の宮下和浩氏が解説する。
「チルドカップコーヒーのトップシェアは、森永乳業の『マウントレーニア』です。1993年の発売でチルドカップ飲料市場の先駆けとなった実績もさることながら、このジャンルは常に0度前後のチルド状態で製造から流通、販売まで管理しなければならないため、いくらコーヒー専門店といっても乳業メーカーの協力を仰がなければ安定した商品供給が難しいのです」
確かにスターバックスのチルドコーヒーはサントリーとの共同開発で製造はタカナシ乳業に委託。タリーズも親会社の伊藤園と一緒に開発して製造は小岩井乳業、四国乳業などが請け負っている。
大手乳業メーカーと提携してしまえば、それで安泰というわけでもない。小売り業界で台頭する安価なPB(自主企画)商品がチルド飲料をも席巻しているからである。
セブンイレブン、ローソン、ファミリーマート各ブランドのPBチルドカップコーヒーのラベルを見れば分かるが、UCC上島珈琲、トモヱ乳業、スジャータのめいらくグループなど有名メーカーが製造現場に“暗躍”し、NBを脅かす存在になっている。
「缶やペットボトルで売っている商品はブランド力が強いので、PBを出してもなかなか勝てませんが、チルド飲料はもともとブランド力がない分、どのメーカーが作っているかはあまり重要ではありません。今後、スタバやタリーズなどNBの売り場がPBに押されて縮小していく可能性はあります」(前出・宮下氏)
そこで重要になってくるのが、定番商品の充実と価格戦略の見直しだと宮下氏はいう。
「あまり風変わりな新商品にこだわるのではなく、カフェオレやエスプレッソといった定番フレーバーをいかにPB並みに安く売るか、もしくは従来と同じ価格で増量するかなどを考えていかなければ、常にコンビニで並べてもらうのは難しいかもしれませんね」
これからの冬場は温かいコーヒーに客が流れてチルドカップ飲料にとっては厳しい時期。しかし、コンビニの棚をめぐるメーカー間の駆け引きに“冷却期間”はない。