美味いコメといえば「コシヒカリ」を思い浮かべる人は多いだろう。しかし、今やこの“常識”は時代遅れになりつつあるという。
コシヒカリは沖縄、北海道、青森を除く全国で栽培され、農水省などの調べでは、作付面積は約60万ヘクタールで作付比率約4割を占める。収穫量は約310万トンを誇り、ともに1位(2009年度)。その“横綱”に追いつけ、追い越せと、全国の産地が次々に新たなブランド米を生産しているのだ。
日本穀物検定協会が美味しいコメを〈産地・品種〉で格付けした2011年産米のランクでは、調査した129種類で最高評価の「特A」を獲得したのは26種。そのうち、かつては美味いコメとは無縁とまでいわれた北海道産が2種、九州産も5種が「特A」にランクイン。コシヒカリに負けず劣らずのコメが増え、ブランド米の勢力図はここにきて大幅に変わってきている。
なぜ、全国各地で美味しいブランド米が増えてきたのか。東京目黒区にある米穀専門店「スズノブ」の社長で、五ツ星お米マイスターの資格を持つ西島豊造氏は、こう話す。
「コシヒカリは土壌や気候に対する適応性が高く日本全国で作られている。そのため価格競争が激しくなり、ブランド化して価値を高めないと生き残れなくなってきた。その結果、地域性を押し出した美味しいブランド米が数多く生産されるようになったのです」
今後、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の貿易交渉いかんでは、低価格の輸入米との競合も懸念され、ブランド米で過度な価格競争を避けたいという農家側の思惑もあるだろう。
さらに、食生活の欧米化の影響もあり、現在のコメの生産量は856万トン(2011年度)まで減っている。これはピークだった1960年代後半の1400万トンの約6割程度。その一方で、消費者はコメの味や品質に、より一層こだわるようになった。このことが、より美味いコメを作ろうという、新種開発競争に拍車をかけているのだ。
では一体、美味いコメとはどのようなものか。全国の生産者が参加する品評会を主催する米・食味鑑定士協会の鈴木秀之会長に、品評会の評価方法と審査基準を聞いた。
「1次審査では、お米の軟らかさを生む蛋白、粘りの規準となるアミロース、乾燥による米粒の割れを防ぐ水分量、酸化の程度を調べる脂肪酸の4項目を機械で計測します。
2次検査も『味度計』といわれる機械で、コメの澱粉の厚みを測定します。コメは水に浸けて浸透させて炊くことで中からふっくらさせます。その水を吸収して包み込む力が強いほどうま味や厚みが増すため、水を吸収する澱粉の厚さを測定するのです」
機械による数値測定を経て最終審査にノミネートされたお米は、“お米のソムリエ”とされる鑑定士が実際に食べて審査する。
「炊いてから50分待って食べます。それくらいの時間が経てば美味しいコメかまずいコメか違いがはっきりするからです。また、ほんわりしたモチ臭があるかどうかもチェックしています。
最近のお米は、機械による刈り入れで香りを失いつつあったが、化学肥料を使わない有機栽培が広がってきたことで、香りも戻りつつあります。コメ粒のツヤは白すぎたり、濁ったりせずに透明感があるかどうか、食感は噛んだ時に弾力があり、のど越しがサラッとするかどうかを評価しています」(前出・鈴木氏)
こうした審査を経て、昨年の大会では3000件を超える応募に対し、金賞15点が選ばれた。金賞となると百貨店などで、平均的なコメの3倍となる1キロ1500円の値がつくこともあり、生産者の励みになっているという。
※週刊ポスト2012年11月23日号