EV(電気自動車)を取り巻く環境が激変している。電力不足が続く中、EVのために化石燃料を燃やしてCO2排出量を増やすわけだから、全くエコではない。つまり、EVに乗ってエコだと思うのは(火力発電所で化石燃料を燃やしていることを失念しているがゆえの)自己満足にすぎないと、大前研一氏は指摘する。以下は、大前氏の解説だ。
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EVの普及スピードが鈍っているにもかかわらず、メーカー各社は「走行中にCO2やNOX(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)を一切発生しない」などと良い面ばかりを喧伝し、ローコストをアピールしている。
たとえば『リーフ』(日産)の公式HPでは、HV(ハイブリッド車)に乗っていた時は月々1万円かかっていたガソリン代が、EVに乗り換えて不要になった、というオーナーの声を紹介している。
それだけ読むと、EVは魅力的に見えるだろう。だが、そもそも電力会社の電気料金は高くなっているわけだから、今も安い電気で走れるとした広告は虚偽行為だ。充電スタンドや自動車ディーラーで安く充電できるといっても、その設備費用などは国の補助金やメーカーのサービスで支えられている。
EV本体も国や自治体の補助金があるのでけっこう安く買えるが、それでも、メーカー希望小売価格は『リーフ』が376万円と406万円、『アイ・ミーブ』(三菱)は軽自動車なのに260万円と380万円もする。EVのコストが安いというのは完全に錯覚だ。原発の夜間電力と補助金のないEVは、エコでもクリーンでもローコストでもないのである。
水力発電が主力のスイスやカナダなら、EVは意味があるかもしれない。しかし、スイスのような山岳地帯にEVは適さないし、カナダのような広大な国で充電インフラを整備するのは至難の業だろう。
結局EVは、現状では一定のエリア内を走る循環バスや短距離のコミューター、街乗り専門のシティビークルなど特定の用途しか活躍の場はないのではないか。
それ以外の用途では、今後何らかの画期的な技術革新がない限り、EVが広く普及するのは無理だと思う。量産できるようになれば安くなるというが、今の普及スピードでは、いつまでたっても損益分岐点にさえ達しそうにない。“究極のエコカー”として期待されているFCV(燃料電池車)も、全く同じ問題を抱えている。
日本の自動車メーカーや経済産業省は、原発問題も含めて根本からEV戦略を見直すべきだろう。
※週刊ポスト2012年11月30日号