高木道郎氏は1953年生まれ。フリーライターとして釣り雑誌や単行本などの出版に携わり、北海道から沖縄、海外まで釣行している。その高木氏が、堤防が持つ役割について解説する。
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多くの釣り人がそうであるように、私もはじめて竿を出したのは堤防だった。買ったばかりの道具を手にいきなり大波打ち付ける荒磯へ繰り出したり、どこで竿を出せばいいかわからない広大な砂浜へ出掛ける人はたぶんいないと思う。
堤防は人間が造ったものだから規則性があり、磯に比べて分かりやすい。それに魚影が濃く、魚種も豊富だから、釣り道場としてはうってつけの場所なのだ。
その理由を説明するまえに堤防基礎知識。堤防を目的と規模から分類すると、防潮堤、港湾堤、漁港堤、突堤の4つになるが、防潮堤は規模が大きすぎ、海に接していないケースも多いので釣り場からは除外する。港湾堤は大きな港と護岸を含む周辺の堤防全般。漁港堤は漁船や遊漁船が利用する小さな港と周辺の堤防全般。突堤は浜から突き出た堤防。この3つが堤防釣りのフィールドである。
また、真一文字に延びた堤防を一文字堤や一文字波止、単に一文字とも呼び、岸から離れた堤防のことを一般に沖堤、一直線の沖堤を沖一文字などと呼ぶ。離岸堤は波や潮流による浸蝕防止用として海岸と平行に造られたものを指すが、多くはテトラポッドなどの消波ブロック(波消しブロック)で構成される。そして、実は魚介類の養殖という役割も持つ。
堤防は基本的に波や潮流の影響を強く受けるフィールドに設置される。波はサラシを作り、潮流は圧縮され、ねじ曲げられて新たな流れや潮目を生み出す。コンクリート表面には海藻類が付着し、海藻を常食する稚貝や甲殻類も定着する。
堤防内側には砂泥が堆積して微生物やプランクトン、ハマトビムシなどの虫類、イソメやウニも棲み着き、それを食べに小魚が集まり、小魚を求めて大型魚食魚も回遊してくる。つまり、魚たちにとって堤防は大衆食堂かファミレスみたいな存在なのである。
※週刊ポスト2012年12月21・28日号