日本プロ野球黎明期に、グラウンドを彩った選手たちが、もし現代のプロ野球に甦ったら――? そんな夢のようなテーマを元に、往年の名選手に話を聞くこのコーナー。不滅の記録、通算1065盗塁の記録を誇る福本豊氏(65)に、「今なら、その記録はさらに伸びましたか?」と聞いてみた。
「今の時代のように、人工芝やったら、バ~ンと跳ね返りがあってすぐトップスピードに入れるから、さらに速く走れるやろうね。 僕はベンチからのサインプレーで走っていた。サインいうても“走るな”というものやけどね。走って一塁が空いてはアカン場合があるから。それがなかったらナンボでも走れたがな。
シーズン106個の記録を作った1972年も、“日本シリーズのために休め”といわれて試合に出なかっただけで、最後まで出ていたらもっと走れたね(130試合中122試合出場)。今は144試合もある。150盗塁? 軽いんちゃう?」
同じく盗塁のスペシャリストで、通算盗塁成功率歴代1位の記録を持つ広瀬叔功氏(76)も、「今の人工芝なら楽勝」と語る。
「昔は整備の行き届かないグラウンド状態に合わせて、歯の長さの違うスパイクを何足も使い分けていた。下が硬ければ歯の短いしっかりしたスパイク。雨が降ったり柔らかいグラウンドでは、グリップ力の高い長いもの。状況に合わせて、試合中でも何度もスパイクを履き替えていました。蹴る力が弱いと、コンマ数秒、トップスピードへの到達が遅くなるからね。今の人たちは考えたこともないと思うけど」
広瀬氏曰く、人工芝は下が硬いだけでなくスパイクが入っていく深さも均一なため、盗塁における「イレギュラー」がないという。
「だからいくらでも走れると思いますよ。それに、石ころが落ちていたり、デコボコになっていて捻挫をすることもないわけだから。そもそも、盗塁や走塁でケガをするようではプロとはいえない。スライディングでケガをするのは単に未熟なだけです。グラウンドや道具は格段に良くなっているんだから」
※週刊ポスト2013年1月1・11日号