地下鉄サリン事件から17年を経て、高橋克也容疑者の逃走生活に終止符が打たれた。6月15日朝の東京・大田区西蒲田のマンガ喫茶での捕物劇は大きく報道されたが、ある男性と若い巡査の「絆」が悲願の逮捕を大きく前進させたことはあまり知られていない。
ある新聞は当日の夕刊で、「高橋容疑者と似た男がいる」という通報がマンガ喫茶からもたらされたと第一報を打ったが、同日午前4時に実際に通報したのは大田区在住の50代男性だった。
男性は、飲食店での仕事を終えた足で警視庁大森署の春日橋交番に出向き、「2日前、高橋容疑者に似た男がマンガ喫茶に入るのを見た」と情報を寄せた。
同交番を訪れたのには理由があった。男性は、5月下旬に道端で頭から流血していた人を見つけて110番をした。その時に現場に駆けつけて血まみれになって介抱した20代の巡査に感心し、その後、交番に時折差し入れする仲になった。
男性は「いつか手柄を立てさせてあげたい」と思うようになり、高橋容疑者逃走が報じられてから、大森の街に眼を光らせていた。そしてついに容疑者の姿を目撃し、巡査の勤務する大森駅前交番を訪れたものの、巡査が非番だったため近隣の春日橋交番に届け出たということだ。
熱心な警察官と地域住民の日常的な交流が犯人逮捕につながった――治安を担う警察にとってこれ以上ない美談である。巡査に取材を申し込んだが、「(男性の存在は)公式発表しておらず、対応できない」(警視庁広報)と叶わず、通報した男性も、「騒がれたくない」とメディアの取材を断わり続けているという。
それでも、頑張っていれば市民は必ず見ていてくれる。今回の出来事はきっと全国の警察官の励みになったことだろう。
※週刊ポスト2013年1月1・11日号