衆院選は議席数では自民党の圧勝となったが、作家の佐藤優氏は政権運営に関し、「火種」が存在すると指摘する。そのうちの一つが、「1票の格差問題」である。
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今回の総選挙は、1票の格差が違憲状態であると最高裁判所が判断した選挙区割りのまま行なわれた。投開票翌日の12月17日に今回の総選挙の無効を求める訴訟が起こされた。過去、裁判所は選挙が違憲(違法)状態であることは認めても、混乱を避けるために選挙結果は有効としてきた。しかし、今回は選挙結果も無効であるという判決が下級審では出るかもしれない。
司法試験に合格した裁判官、検察官、弁護士は、「われわれは難しい競争試験を勝ち抜いたエリートだ」という意識を強く持っている。特に裁判官には、司法研修所での成績優秀者が任官する。それだから、国会議員ごときが最高裁の判断を無視したことで、裁判官のプライドが激しく傷つけられた。
誤解を怖れずに言えば、裁判官からすれば国民は有象無象である。その国民から選ばれた国会議員は、有象無象のエキスのようなもので、国会で選ばれた首相ごときが、憲法の番人である最高裁判所の判断を無視することなどあってはならないのである。
下級裁判所の裁判官は、最高裁の顔色をうかがう。最高裁の面子を維持するために、今回の選挙結果について、1票の格差が著しい、具体的には2.3倍を超える選挙区について、違憲かつ無効という判断を示したほうが、自らの裁判所内での出世につながると考える野心的な裁判官ならば、史上初の無効判決を言い渡すかもしれない。
選挙結果が無効である衆議院議員を含む国会は、正当性を持たないことになる。これは議会制民主主義の原理原則に関わる問題なので有識者もマスメディアも政権に対する批判を強めることになるであろう。国会でも新区割りと議員定数是正の動きが強まり、新しい法律が採択される。
そうなれば、速やかに憲法に合致した新選挙区割りで総選挙を行なうべきであるという声が有識者とマスメディアにおいて高まり、それが世論にも拡大していくであろう。そこで自民党が数に物を言わせ、権力の座にしがみつこうとすると、支持率が低下し、政治的混乱が再び起きる可能性が生じる。
※SAPIO2013年2月号