国内

今上天皇は二・二六事件の60年後も国民をまとめようとご尽力

 昭和天皇は戦前、二・二六事件では蹶起(けっき)軍を終始「反乱軍」と見なして武力討伐を命じた。それによって国を二分する内乱に発展することを回避したのである。だが、その後は蹶起軍の将校や遺族に対して長年気にされ、さまざまな配慮をされた。『畏るべき昭和天皇』(新潮文庫)の著者で評論家の松本健一氏が明らかにする。

 * * *
 戦後の昭和天皇は国民を和解させることに心を砕かれた。特に二・二六事件については長年気にされていた。将校の遺族や国民の間にわだかまりがあったからだ。それは、昭和天皇が理性的判断を持った政治権力だったならば、なぜ財閥だけが富を貪り、娘を身売りさせなければならないほど農村を疲弊させてしまったのか。

 なぜ当時の国民を苦しみから救ってくれなかったのか──国民にそのような複雑な想いがあり、そうした国家の矛盾に対して蹶起した将校へ同情もあったからだ。

 昭和50年(1975)にエリザベス女王が来日したとき、昭和天皇は真崎甚三郎大将の息子を通訳にした。真崎は二・二六事件のとき蹶起将校が軍人内閣の首班にかつごうとし、内乱幇助の容疑で勾留されている(後に無罪)。その息子は外務省の役人になったが、二度も宮内庁に出向して天皇付きの通訳になった。天皇は真崎の息子と知っていて、そういう措置をとられたのだ。

 一方、今上天皇も歌人の齋藤史(故人)を午餐会に招いたとき、歩み寄られて「あなたは齋藤瀏さんの娘さんでしたね」と声をかけられた。齋藤瀏(少将)も二・二六事件の際に反乱幇助の罪で投獄されている。さらに齋藤史は平成9年(1997)、皇室最大の文化的行事ともいえる歌会始に招かれ歌を詠む召人に選ばれている。今上天皇は昭和天皇の思いを引き継ぎ、二・二六事件から60年後でも国民をひとつにまとめようと尽力されていたわけだ。

 昭和天皇は昭和63年(1988)9月に大量の吐血をされ、病床にあっても、「長雨にたたられた今年の米の作柄はどうなっているのか」と側近に尋ねられた。国民が天皇のご不例に戸惑い、国会が消費税を巡って激しい対立を続けていたとき、昭和天皇は日本が豊葦原瑞穂(とよあしはらみずほ)の「米づくりの国」であり、国の経済と国民の生活の根幹に影響を及ぼすのは米の作柄だ、長雨にたたられているがどうなっているのか、と問うた。祭祀の王として国民を見守る役割を最期まで果たそうとされたわけだ。

 戦前の昭和天皇は幾多の政治的困難に直面しながらも、断固、立憲君主であろうとした。戦後は「国民の心を抱きしめ、慈しみ、祈る」ことこそが天皇の政の本質であると考え、またそれを実践された。

 そして、今上天皇は皇后とともに政治家が忘れつつある東日本大震災の被災地に赴き、立ち上がろうとしている被災者たちをお見舞いされ、死者たちに祈りを捧げる旅を続けている。

 昭和天皇の戦いを間近でご覧になった今上天皇は、昭和天皇が明治天皇の五箇条の御誓文に思いを馳せたように、昭和天皇の政の精神に立ち、受け継ごうとされている。

※SAPIO2013年2月号


トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン