西川文二氏は、1957年生まれ。主宰するCan! Do! Pet Dog Schoolで科学的な理論に基づく犬のしつけを指導している。その西川氏が、犬は人の言葉を理解する能力があるのかについて解説する。
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かつてドイツで200語理解できているって犬がいて、犬にも言語理解能力がある、なんて話題になったことがある。果たして犬に言語理解能力はあるか、否や。赤ちゃんの時から人間は、いっぱい語りかけられる。やがて、繰り返される言葉をオウム返しする。
例えば「ママ」。ママと返すと、周りは大喜び、いいことが起きる。結果、ママという言葉を発する頻度が増えていく。パパという言葉の獲得も同様。
ところがやがて気がつく、お母さんの顔を見て、パパと発しても、周りの反応は芳しくない。そして、お母さんにはママ、お父さんにはパパということで、それぞれいいことが起きるってことを。ここで、ママとパパの区別が始まる。
さらに言語の獲得は、2つの単語を組み合わせる次の段階へと進む。ワンワン+カワイイとかね。
さらにさらに、単語の組み合わせは3つに増える。この段階になると、その順番などの法則の理解が必要になる、人間の子どもは自然とそれらも身につけていく。それも、3歳ぐらいまでに。
さて犬はというと、彼等はトレーニングをすれば、人間の指示で行動を取るようには教えられる。
「財布」+「とって」、「鍵」+「とって」などの名詞の区別、さらには名詞と行動の合図との組み合わせも。しかし、犬はこの2つの組み合わせの理解までが限界。
言語の定義に「伝達の手段」と「思考の手段」というのがある。この2つの条件を満たすには、3つ以上の単語の組み合わせが不可欠。その視点からは、犬に人間と同じような言語理解能力があるとは、言いがたい。
おっと、やっぱり犬は人間より劣るんだななんて、勘違いしないように。言語のような、しちめんどくさいものを、犬は生きるために必要としていない。ただそれだけのことなんですからね。
※週刊ポスト2013年2月8日号