昨年12月、大きなニュースが流れた。サントリーHDが、前述のオランジーナや伊右衛門などを扱う清涼飲料事業の子会社サントリー食品インターナショナルを上場させる方針を発表した。上場は早ければ2013年夏、株式公開による資金調達は約5000億円に達する見通しで、海外でのM&Aなどに充てていくと見られている。ちなみにサントリーHDは非上場企業である。
国内市場の縮小が続く中、以前から海外市場に打って出る必要に迫られていたのは間違いない。
ではなぜ、このタイミングで上場するのか。ひとつは、これから始まる世界的な「水の争奪戦」への備えが挙げられる。沖大幹・東京大学生産技術研究所教授(「水の知」寄付講座兼任)は指摘する。
「安全な飲み水にアクセスできない人は世界に9億人いる。気候変動よりも水問題が本当は喫緊の課題」
このため、ミネラルウォーター『天然水』をはじめ水関連をより強化させていく。M&Aも「水」を基準にしていくだろう。『ジムビーム』で知られる米ビーム社買収も浮上したが、酒事業とともにベースとなる水を重視する戦略を描いているのではないか。
持ち株会社のサントリーHDではなく、子会社のサントリー食品を上場させる背景には、創業家の影響力をグループ内に維持させる狙いが見て取れる。サントリー食品の株式は、上場後も過半数をHDが握り続けると見られる。
HDの株式は9割以上を創業家が持つ。特にサントリー食品社長は、創業家の鳥井信宏氏。HDの佐治信忠社長の後継者と目されているため、“次”へのステップとして上場企業の経営を経験させる狙いもあろう。
■永井隆(ジャーナリスト)とSAPIO取材班
※SAPIO2013年2月号