アベノミクス効果によって急速に円安が進んでいるが、これは日本経済にとってどのようなメリット、デメリットがあるのか、早稲田大学政治経済学術院教授の若田部昌澄氏が解説する。
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円安には輸入価格が上がるというリスクが伴う。しかし、過去においては円安によって貿易の利益が増え日本の実質GDP(国内総生産)は増えたから、円安のメリットはデメリットを上回る。日本人トータルの所得は増えるのだ。
またTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)で日本の関税が下がれば、輸入価格上昇を一部相殺する効果を持つ。
TPP参加については各種の試算があるが、強いて挙げるなら内閣府の試算が参考になる。内閣府はTPPへの参加によって日本の実質GDPが10年後に0.54%(金額ベースで2.7兆円)押し上げられると試算している。10年後というのは関税撤廃にかかる時間を想定しているからだ。関税撤廃だけを考えて計算したものだが、ルール作り次第で新市場を開拓できればさらに大きな数字となる。
また、農業分野などでTPP脅威論が強いが、TPPにおける関税撤廃は、あくまでも「原則」だ。日本は現在、コメに778%の関税をかけているが、他国も日本同様に保護したい農作物を抱えている。
関税がすべてゼロになることは考えにくいし、TPPが発効しても国が補助金などで特定の産業を支援する制度を設けることは可能だ。国全体としても、他業界の発展による税収増で、農業のマイナスは十分カバーできる。
安倍政権は農業団体の反発を恐れて参院選まではTPPへの態度を明確にできないかもしれないが、今年中には政治決着に動くことになるだろう。安倍氏は「自由貿易は日本に必要」と公言してきた。
地ならしとしてTPPに参加した際の農林水産物の生産額減少の試算をやり直すよう農水省に指示を出した。どの程度の補償で農業界が納得するか見定めるつもりだろう。貿易拡大による国全体の利益を上回らない額で農業界を納得させられるか、安倍氏の腕の見せ所となる。
※SAPIO2013年3月号