サントリーや大和ハウス工業は、この4月から「完全65歳定年制」を導入する。
「65歳定年時代」といっても、多くの企業では60歳以降は嘱託や契約社員、子会社からの派遣社員として再雇用され、給料が半額以下に大幅ダウンする場合がほとんどだ。
その点、両社の場合、正社員のまま定年が延長され、60歳時点の6~7割の給与水準が維持される。
「以前は60歳からは契約社員として再雇用される形だったので賃金は正社員の4~5割でした。今後は60歳を過ぎれば役職を外れるので減額はされるものの、正社員のままなので6~7割の賃金になります。長く働くほど生涯賃金も増えるのです」(大和ハウス工業広報企画室)
しかし、それでも退職金が増えるわけではない。大和ハウス工業の場合、退職金は60歳時点で先払いされる。定年延長後の5年分はなしである。
「ただし、企業年金部分は60歳以降も積み増され、退職時に支給が始まります。たとえば63歳で早期退職すれば企業年金は3年分積み増しされ、退職したその翌月からもらえるので、65歳まで勤め上げたほうが少し得になります」(同前)
サントリーは退職金の支給そのものが65歳の定年時になる。
「金額は増えませんが、65歳まで働かなければ減額されるということでもありません。60歳以降は途中退職しても退職金は変わりません」(サントリーホールディングス広報部)
雇用延長で退職金を減らす動きが広がる中で、金額が同じならもらえる時期が遅れても、社員は損しないように思いがちだが、そうではない。
ファイナンシャルプランナーの田中徹郎氏は、支給開始が遅くなることで実質1割減になる可能性を指摘する。
「アベノミクスでこれから物価上昇局面に入ると予想されます。安倍政権のインフレ目標2%を前提に試算すると、同じ2000万円の退職金なら、65歳になる5年後にもらえば現在より実質価値は1811万円に目減りする。その間、運用もできないという機会損失のリスクもある」
これから定年延長する企業は増えてくるはずだが、「退職金が減らないならいいか」と安心するのは禁物だ。
※週刊ポスト2013年3月1日号