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キリンのビール割り機つくった女性社員 iPhoneアプリで着想

学生時代は福岡ドームでビール売り子だった田代さん

 ちょっとした業界通でなくとも、お気づきではなかろうか。お堅いイメージのあるキリンビールが、主力商品の斬新な飲み方提案を次々と打ち出していることを。

 1990年の発売以来、ロングセラーを続けている『一番搾り』の今年のキャッチコピーは、ずばり「ビールって、おもしろい」。昨年は飲食店を中心に、泡を凍らせた『一番搾りフローズン生』を提供したところ、多くの驚きとともに、ビールから縁遠くなっていた若者たちのハートを引き寄せた。

 そして、今年お目見えしたのは、穴が開いた専用の器具をコップに装着して思い思いのリキュールやジュースをビールで割る新提案。きれいな2層のビアカクテルが出来上がる『一番搾りツートン<生>』である。

「実はあの器具(ツートンメーカー)を開発するまでに丸半年も失敗を重ねました。街中のバーテンダーさんは、スプーンの裏側を使って上手に2色のカクテルがつくれるのに、私がどう真似てみても色が分かれない。毎日、会社でカクテル作りにのめり込みました」

 こう話すのは、マーケティング部に所属する田代美帆さん(29)。試行錯誤の後、注ぎ込むビールを液面に乱流を起こさないようポトポト落とすのがコツだと分かったが、簡単な器具で成功させるには、穴の大きさや数によって完成率にムラが出る。

「こぼれる液が着地したとき、お互いの波が打ち消しあうようにするためには、偶数個の穴が最適らしいんです。私は算数が苦手で詳しく説明できないのですが(笑い)、一緒につくったメーカーさんに毎日会社に来てもらったおかげで、ようやく世に出すことができました」

 そもそもツートン生は、田代さんはじめ、チームのメンバーが若者たちの間に浸透する“カスタマイズ流行り”に着目して提案された企画だ。

「例えばiPhoneは好きなアプリをダウンロードして自分なりの1台にしますよね。ビールだって、もっとオリジナリティーを出せれば飲むきっかけになると思ったんです。だから、敢えて、レッドアイ(トマトジュース割り)やシャンディ・ガフ(ジンジャー・エール割り)など難解な名前で割り材をオススメするのはやめて、自分で好きなものを選んで飲んでもらうスタイルにしました」

 チームといっても、田代さんが担当する『一番搾り』や『ラガー』といった王道のビールジャンルを担当するマーケティング部隊はたったの4人。まさに少数精鋭で市場動向の把握から派生商品の開発やCM制作、リニューアルともなれば味の設計やパッケージデザインの考案まで、とにかくブランド育成の全てに関わる。

 4人の中で田代さんは最年少で、唯一の女性。やりがいとは裏腹にプレッシャーも感じているのではと思ったら、彼女にとってむしろ今の体制は理想的らしい。

「人数が多くなると皆で共有しているブランドイメージや価値観がズレてしまいますし、なにか課題を改善するときも、皆が同じ方向にピタッと向けなくなってしまいます。私にとって4人はちょうどいいんです。お昼ご飯も一緒に食べに行けますしね(笑い)」

「ビールメーカーとして、これからの日本で何をすべきか?」。4人が集まる席では、こんな大きなビジョンに花を咲かせることもしばしばあるという。身の回りで起きている小さな流行や現象も、大きな社会の枠組みで冷静に捉えていく。だからこそ、田代さんの発言にもブレはない。

 最後に将来の夢を聞いてみると、珍しく長い沈黙があった。

「フローズンやツートンでやった新しいビールの飲み方提案が時代にマッチしているのであれば、まだまだ考えなければならないことがたくさんあり過ぎて……。将来的には既存のブランドだけでなく、ゼロから商品を立ち上げてみたいです」

 苦労の末に完成させたツートンメーカーは、マーケチームのリーダー名とともに、「田代美帆」の名前も添えられて特許申請がなされたという。そのことを少し照れながらも誇らしげに語る田代さん。若者のビール離れが叫ばれる昨今だが、次代のビール会社を担う若き人材は、着実に育っている。

【撮影】渡辺利博

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