名優たちには、芸にまつわる「金言」が数多くある。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、その言葉の背景やそこに込められた思いを当人の証言に基づきながら掘り下げる。今回は、人気俳優・平泉成の芝居の探り方について紹介する。
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近年の平泉は、現代劇やCMなどでサラリーマンや職人、技師といった一般的な男性の役を演じることも多い。こうした時は、「役者がその役を演じている」という雰囲気はなく、日常の生活空間からそのまま抜け出してきたかのような、視聴者に身近な感じの存在になっている。
「大映にいた頃、『スターになりたきゃベンツに乗れ。役者になりたきゃ電車かバスに乗れ』と先輩に言われました。
スターになりたければ金が無くともベンツに乗って、周囲から憧れられろ。役者になりたいのなら、電車やバスで一緒に乗っている人をよく観察しておけ、と。
それで僕も、ちゃんとした演技論を学んでいない代わりに、生活や自分自身の経験から自分なりの芝居を探っていきました。
※週刊ポスト2013年4月12日号