かくも鋭い観察力で新人を裸にするプロ野球のスコアラーたち。彼らは一体どんな仕事をしているのか? 一般のファンの眼には映らない彼らの仕事について触れておこう。
巨人の8人体制を筆頭に、各球団は平均で5~8人のスコアラーを配置。チーム付きと先乗り部隊に分けて任務を分担している。
まずチーム付きは相手チームはもちろん、自チームの選手も観察してデータを採集。若手スコアラーは練習時には、主力打者の打撃投手を兼務することもある。
先乗り部隊には、次のカードで対戦するチームの情報収集に当たる「先乗りスコアラー」と、次の次のカードに対応する「先々乗りスコアラー」がいる。
「先乗りが見る試合で投げる先発投手は、次のカードではまず登板しないので、野手や中継ぎや抑え投手のチェックが主な仕事。先々乗りが、先発投手の分析に当たることが多い」(セ球団のスコアラー・A氏)
ネット裏に陣取り、調査するチームの各選手の動きを追って、ノートに逐一記録。ビデオ撮影をすることもある。チェックする点は30項目にも及び、そのデータが本拠地球場のスコアラー室に備えられたコンピュータに集められ、解析を加えて調査レポートが作成される。これが監督やコーチ首脳陣のミーティングに提供されて、具体的攻略法の指示やアドバイスになる。
「投手の場合は牽制や投げ方など、クセを見破るのが大事。これでチーム打率が5分上がるといわれます。野手では打球方向や変化球の対応を見る。2~3周すれば欠陥のある選手は大体わかります」(セ球団のスコアラー・B氏)
情報収集は多岐にわたり、選手の性格や交友関係に及ぶこともある。
「スコアラーの人は、選手と女子アナとの交友関係とか、芸能記者以上に知っている人がいますよ。試合中にベンチから飛ぶ野次のネタ元だったりします(笑い)」(スポーツ紙記者)
ただ、スコアラー同士が顔見知りでも、お互いに情報交換することはない。
「交換するのは安いホテルの情報くらい。どの球団も、遠征に出れば1か月は家に帰れないですからね。一緒に酒を飲んでも、野球の話で本当のことは話せないし、酔えないのが辛い。基本的に孤独な稼業です」(セ球団のスコアラー・C氏)
ある地方球団の中堅スコアラーは、「東京へ行くと、大学に行っている娘に昼間会えるのだけが楽しみ」と、しみじみしたことをいう。
「ナイターが終わると、ホテルの自室に戻ってパソコンに向かう。その脇には、いつも家族の写真を置いてあります。データの集計と連絡が終わるのは、午前3時近くになることも珍しくない。汗水流して集めたデータが試合に生かされ、チームが勝った後にホテルで飲むビールの味は、格別ですよ」(パ球団のスコアラー・D氏)
※週刊ポスト2013年4月19日号