「歩きスマホ」の危険性について注目が集まっているが、既に多くの悲惨な事故を招いている。国交省が鉄道事業者と行なった調査によれば、首都圏(1都3県)の駅ホームからの転落事故は2011年度に3243件。このうち「携帯電話使用中」は18件あった。過去の転落事故の中には死亡したケースも少なくない。
スマホや携帯の利用実態を調査する筑波大学の徳田克己教授(バリアフリー論)は、こう指摘する。
「混雑した駅のホームと階段での歩きスマホはもっとも危険。自らつまずいたり、転倒、転落するだけでなく、体の不自由な人や幼児を突き飛ばして加害者になる事態がいつ起きてもおかしくない。こうなると、やはり『歩く凶器』としかいいようがありません」
また、海上保安庁HPによれば、夜釣りに出かけた男性が携帯を見ながら防波堤を移動中に真冬の海に転落、地元の漁船に救助されたという記述も見られる。
迷惑行為や事故が増えるにつれ、「歩きスマホ」には抗議の声が上がり始めている。あるネット調査では、「歩きスマホの規制は必要か」という質問に約83%の人が「必要だ」と回答している。
東京・港区の苦情窓口には、〈携帯を操作中の歩行者にぶつかられて転倒した。携帯しながらの歩行は法律で規制せよ〉という怒りのメールも届いている。
迷惑な上に危険極まりない「歩きスマホ」。防ぐ手立てはないのか。前出・徳田氏は、こう話す。
「2007年に行なった利用実態調査の時点では、まずはマナーや思いやりの啓発で対策を講じるべきだと思っていたが、スマホの普及とともに状況は悪化するばかり。歩きたばこが条例で規制されたように、自分でコントロールできないなら、法的な規制も必要ではないでしょうか。議論するだけでも、今、歩きスマホをしている人への痛烈なメッセージとなるはずです」
現在、自動車の運転中だけでなく、自転車に乗っている時の携帯使用も2008年の道交法改正で禁止されている。昨年4月以降は、各都道府県ごとに罰則規定を設けるようにもなり、例えば、愛知県では自転車乗車中に携帯を使用すると5万円以下の罰金が科せられる。
これまで述べてきたような危険度を考えれば、次は歩行中の携帯使用に罰則が設けられてもおかしくはない。実際にアメリカ・ニュージャージー州のフォートリーでは、歩きながらスマホでメールする行為を禁じる「歩きスマホ規制条例」が昨年成立。違反者には85ドルの罰金が科せられる。
一方で規制の対象となりかねない携帯メーカー側にも、歩きスマホ防止の機能などが求められている。愛知工科大の小塚一宏教授(交通工学)はこう指摘する。
「関連メーカーは歩きスマホなどへの対処を真剣に検討すべき時期に来ていますし、一部に自助努力の動きも出始めています」
既に起こっているような悲劇を繰り返さないためにも、「歩きスマホ」は禁止すべきである。
※週刊ポスト2013年5月3・10日号