高齢化に伴って死者数が増える大都市で、いま墓不足が深刻な問題となっている。
墓地は大きく分けると、自治体が運営する「公営霊園」、法人が運営する「民間霊園」、境内の中に墓がある「寺院墓地」の3つに分けられる。中でも最も多くの人が希望するのが、無宗旨・無宗派で入れて、かつ費用も安い公営霊園である。
その人気ゆえ、都内の公営霊園に入るのは至難の業だ。毎年1回、6月に希望者が募集され、7月に抽選が行なわれている。手元に埋葬されていない遺骨があることが応募条件なのだが、注目すべきはその倍率である。
最も高い青山霊園(東京・港区)では、14.9倍。その他、小平霊園12.8倍、谷中霊園12.0倍、八柱霊園10.7倍などとなっている。公営霊園に入るために何年も家でお骨を抱えている人が相当数いるということなのだ。
最近では墓不足対策のため、大きな墓が空けば細分化して分配する霊園もあるが、焼け石に水の状態である。
一般に公営霊園は費用が安いが、「青山ブランド」とも呼ばれる青山霊園だけは別格的に高額だ。小区画でさえ436万円。墓石を入れると総額1000万円にものぼるという。相当な富裕層でなければ手を出せない代物になっている。
だが、いくらお金を積もうが抽選に当たらなければ入れないのが公営霊園だ。何年も応募し続けている希望者も多いなか、公募以外で権利を手に入れる裏ワザはないのだろうか。
霊園事情に詳しい、葬儀ビジネスコンサルタントの吉川美津子氏がいう。
「すでに権利を持っている知人から譲ってもらうことはできません。また、政治家など有力者を通じて霊園に入れたという話も聞きません。残念ながら、たとえ東京都知事でも正面から応募して当選する以外に方法はなさそうです」
本誌は取材中、「公営霊園に顔が利くので斡旋できる」という石材店があるという情報を得た。しかし、実際には“裏口”から人気公営霊園に入る方法はない。その石材店はそれを謳い文句にして「手元に遺骨を抱えている上客」を集めて、最終的には民間霊園を勧めていたのである。
霊園における石材店の役割は意外に知られていない。石材店とは読んで字のごとく、墓石販売をするところだが、実は民間霊園の経営にも深く関わっている。民間霊園の開発は1~20社の石材店の出資によって行なわれるのだ。
だから、民間霊園を選んだ場合、ほぼ間違いなく出資者である石材店から墓石を購入しなければならない。一方で、公営霊園ではどの石材店から購入しようが自由である。
※週刊ポスト2013年5月17日号