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翻訳家・岸本佐知子さん ドーハの悲劇は自分のせいだと嘆く

 編集者の松田哲夫氏は基本的には自らが本を選んでいた『王様のブランチ』(TBS系)の書籍コーナーだが、ときには番組スタッフにすすめられた本をとりあげたこともあった。人からすすめられた本のなかで特に印象的だったもののひとつ、翻訳家の岸本佐知子さんのエッセイ集について松田氏があらためてとりあげる。

 * * *
「王様のブランチ」のぼくのコーナーで取り上げる本を選ぶのは楽しかった。基本的には、自分で読んだものから選んでいたが、ディレクターがすすめてくれた本を取り上げたこともある。2000年のころ、本コーナー担当になった山岡鉄治さんが、あるエッセイ集をおずおずと取り出し、「これ面白かった」と恥ずかしそうに言った。著者の岸本佐知子さんは翻訳家で、ニコルソン・ベイカーの作品などを訳しているのだそうだ。

 すすめられるままに、その『気になる部分』を読み、これまで出会ったことのないタイプのエッセイにすっかり魅了されてしまった。落ち着いた、てらいのない文章で、「おもしろがらせよう」といった媚びた感じがまったくないのがいい。「気になる部分」にこだわり、じっくり腰を据えて考察していくのだが、その生真面目な文章を読んでいると、思わず笑いがこみあげてくる。

 例えば、「私は、“スポーツさげまん”である」という文章がある。自分がテレビで応援すると、その選手は必ず負ける。「ドーハの悲劇」もそれで起きた、だから「ここぞという大事な勝負の時は、心を鬼にして試合を見ない」。

 ここまでは、まあ誰でも同じようなことを考えるだろう。ここからが、岸本さんのすごいところで、「伸び盛りの新人選手を気に入ってしまったりすると、申し訳なさで胸が一杯になる」。

 さらにもう一ひねりがある。「私に気に入られるその間の悪さがそもそもおのれの限界なのだ」と反撃に打って出て、最後には「私のパワーに打ち勝ってこそ真に偉大なスポーツマンだ」とまで言い放つのだった。

※週刊ポスト2013年6月14日号

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