意味をなさなくなった古い規制に既得権者が巣喰って温存され、新しいビジネスを始めようとする者が邪魔をされて利用者が不便を被る──この国の至るところに見られる利権の構図だが、その典型例が「有料道路の償還主義」だと、政策工房社長の原英史氏は訴える。
* * *
「有料道路はもともと、いずれは無料になるはずのものだ」という話を聞いたことがある人は少なくないだろう。ただ、どこかで聞いたことはあっても、あまり意識してはいないのではないか。理由は簡単で、「いずれ」がいつまで経ってもやってこないからだ。
例えば、東京と千葉を結ぶ京葉道路は1960年に開通した。当初は30年間の料金徴収期間が設定されていたので、1990年には無料開放されているはずだった。ところが、数次にわたって徴収期間が延長され、現時点では2050年まで(徴収期間で言うと90年間)とされている。
なぜそうなったか。京葉道路を通る車が少なくて、償還が進まなかったからではない。それどころか、京葉道路は指折りの交通量のある“ドル箱路線”だ。問題は「京葉道路単体での償還主義」でなく、「他の有料道路と一体での償還主義」が取られてきた点にある。
いわゆる「料金プール制」だ。巨額の費用を投じて建設した東京湾アクアラインや全国の高速道路網と一体に扱われ、全ての路線の償還が終わるまでは料金の徴収を行なうとの理屈で、徴収期間の延長が繰り返された。
こうして「有料道路はいずれ無料に」という原則は建前に終わる。新たな道路整備が次々と進み、いつまで経ってもどこも無料にならない。そして、「料金プール制」で全国一体のどんぶり勘定となった結果、個々の道路ごとの費用対効果のチェック(費用便益分析)は甘くなり、有力政治家の地元に利益誘導でほとんど車の走らない道路がどんどん作られてきた。役所にとっても旧道路公団は天下り先として確保されてきた。それが「償還主義」の現実だったのである。
※SAPIO2013年7月号