少子化対策としても、女性の労働力活用のためにも、「待機児童」問題の解消は急務だ。なのに、なぜ待機児童は減らないか。政策工房社長の原英史氏が指摘する。
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厚生労働省が発表する全国の待機児童数は2001年が約2万1000人、2007年が約1万8000人、2012年が約2万5000人。長く問題になってきたにもかかわらず、その数字は高止まりしている。今年に入って東京都の杉並区、足立区、大田区、渋谷区などで保育所への入所を拒否された保護者らが集団で異議申し立てを行なう動きも相次いだ。
そうした中で成功例として注目を集めるのが「横浜方式」だ。横浜市は2010年には全国の市町村で最多となる1552人の待機児童を抱えていたが、林文子市長のもとで保育所増設などの対策を進め、この4月には3年足らずで待機児童ゼロを達成。
その原動力となったのが、民間企業の積極的参入だった。かつて横浜市の認可保育所は、「市立」と「社会福祉法人立」がほとんどだったが、ここ数年で「株式会社立」の数が急速に増えた。2003年にはわずか2つ(0.7%)だったところ、2012年には106、2013年には142へと増え、認可保育所総数(579)の約4分の1を占める。とりわけこの1年間では新設保育所の半分が株式会社立だ。
一方で国全体を見ると、2012年時点の認可保育所総数2万3711のうち、公立が1万275、社会福祉法人立が1万1873で、株式会社立はわずか376(1.6%)。10年前の横浜市の状態が続いている。ここに、待機児童問題解決のカギが潜んでいる。
そもそも「社会福祉法人」とは社会福祉法に基づき介護、保育などの社会福祉事業を行なうために設立される法人だ。営利目的ではなく、社会福祉事業を目的とする法人として特別に位置付けられ、都道府県(政令指定都市では市)などの認可・監督を受ける。
社会福祉事業は法律上、「第一種」(養護老人ホームなど)と「第二種」(保育所など)に分類され、第一種は行政または社会福祉法人が経営主体となることが原則(社会福祉法60条)。一方、第二種にこうした制限はないが、社会福祉法人が主たる担い手と位置付けられることは同じだ。
保育所の場合、かつては通達(昭和38年「保育所の設置認可等について」)によって、経営主体が市区町村と社会福祉法人に限られていた。待機児童問題が深刻化する中で2000年に経営主体制限が撤廃され、株式会社立なども認められることになった。
ところが実態としては前述の通り、参入実績はごく限られている。結論を先に言ってしまえば、社会福祉法人という特別な制度をわざわざ作っていることが根源的な問題である。
第一の問題は国が経営主体制限撤廃を行なったにもかかわらず、自治体の要綱などによってそれが続いてきたことだ。たとえば多くの待機児童を抱える名古屋市、大阪市、東京都世田谷区などでは経営主体が自治体と社会福祉法人に限られ、株式会社立の保育所は存在しない(大阪市では2012年、橋下市長が方針転換を表明した)。
政府の規制改革会議に参考人として出席した株式会社JPホールディングスの山口洋代表取締役によれば、株式会社立が認められている自治体は少数派であり、特に首都圏以外ではほとんど認められていないという。
※SAPIO2013年8月号