ライフ

28歳で2年後生存率0%宣告男性 イメージ療法で42歳現在元気

「生きる力」は時に奇跡的な物語をつくり出す。長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』ほか著書を多数持つ鎌田實氏が振り返る。

 * * *
「命はやわじゃない」と叫んでいる42歳の杉浦貴之くんに出会った。彼は自分のことを「シンガーソング・ランナー」と呼ぶ。曲を作っては歌い、語り、がん患者さんを連れてハワイのホノルルマラソンにも何回も参加している。

 彼は28歳のときにがんを宣告された。当時は猛烈サラリーマン。急激な腹痛に襲われて病院に行くと、腎臓から出血していたという。CTやMRI、血管造影検査など、ありとあらゆる検査を行なったが、原因は分からなかった。症状が治まったため経過観察になった。

 3か月後再検査をすると、もの凄い速さで腫瘍が大きくなっていることが分かった。腎がんで、腎臓の外にも飛び出すほど。しかも一般的な腎がんではなく、未分化原始神経外胚葉腫瘍(PNET)という舌を噛みそうな病名を告げられた。

 これは子どもの脳にできやすい腫瘍で、大人の腎臓にできるのは珍しいケースと説明を受けたという。当時は、20ぐらいの症例しかなく、全員が2年以内に死亡と厳しいこともいわれた。杉浦くん本人には余命までは告げられなかったが、両親が呼ばれ「早ければ半年、2年後の生存率は0%」の余命宣告を受けたそうだ。

 若いから進行が速い。彼の場合も、わずか3か月間で腫瘍は急激に増殖していた。しかし、杉浦くんはがんの宣告を受けても、それほど切羽詰まった気持ちにはならなかった。

 こういう人はときどきいる。嫌なことは右の耳から入って左の耳へと受け流すことができるタイプ。

 彼は、友人ががんになったとき、書店で「がんは治る」という本を読んだという。自分ががんになったそのときに「がんは治る」という言葉だけが蘇ってきた。「珍しくて、増殖が速く、悪性度の高いがん」だということは残っておらず、頭の中は「がんは治る」という言葉だけが広がっていた。

 手術を受け、抗がん剤治療を受けた。病室では、がんを克服する本と女性のハダカが載っている雑誌を交互に読みまくったという。

 そんなことをしている内、本で読んだ、がんにかかり克服した人に会いたくなった。外出許可が下りるとすぐに会いに出かけた。

 抗がん剤治療で眉がないので、母親からまゆ墨を借りて描き、帽子をかぶって新幹線に乗った。両親からは「退院してもう少し元気になってからでいいじゃないか」と諭されたが「今しかない」と思ったそうだ。

「本は読んだだけで勇気をもらえるんですが、本当かなという疑問もあった。もっと真実を知りたかったので、実際に会いに行こうと思ったのです」

 短絡的だけど、僕はこういう人が大好き。杉浦くんがやっていることは、理論的にいうとモデリングという技術で、成功した生き方を真似するのは、人生の生き方だけではなく、がんと闘うときにも有効なのだ。すでに早い時期から、がんが治ってマラソンを始め、ホノルルマラソンを走るということをイメージしていた。

 この後、杉浦くんは「メッセンジャー」というがん患者のための雑誌を作って編集長になり、80人近いがん患者を連れてホノルルマラソンに参加している。

 重い病気に勝つためにはとてもいい方法だったと思う。

 その上、好きな人と一緒にマラソンを走ると、勝手にイメージしたら、本当に好きな女性を射止めて結婚までしてしまった。

 28歳のときに余命半年と宣告された命が、42歳の今でも元気だ。その成功した理由が、モデリングというイメージ療法にあったことは否定できない。

※週刊ポスト2013年10月4日号

関連記事

トピックス

大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン