芸術とは、考えるものではなく感じるもの。作家の中野京子さんが上梓した『はじめてのルーヴル』(集英社)は、「そう言われても芸術の楽しみ方なんてわからない」という人にはうってつけの一冊だ。
「美術教育でよく使われる“作品をあるがまま感じなさい”という言葉は、実は印象派以降の作品に限った見方です。ルーヴル美術館に展示されている作品は、意味のない風景を描いた印象派作品とは正反対。そんなルーヴルの作品を楽しむ鍵となるのは、ズバリ“背景を知ること”です」(中野さん・以下「」内同)
そう話す著者は、ドイツ文学者でもあり、大学講師として芸術の授業の教鞭も振るう。学生の反応はどうか。
「男性に歴史好きが多いからでしょうか、教室前方の席は男子学生が固めています。授業では、ただ単に絵を見せるだけではなく、作者や描かれた人物のキャラクター、時代背景を一緒に説明します。そうすることで、作品だけではなく、作品の登場人物に興味がわき、魅力に気づく。“感じなさい”で感じられないなら、違う入り口を用意すればいいんです」
色合いや構図の良し悪しといった専門的なことはわからなくても、少しでも作品が生まれた背景などの知識を持っていれば、その作品を充分楽しめるようになる。
「例えば、西洋絵画や歴史にほとんど興味がなくて、美術館に行っても熱心に見ることなくさらっと流してしまう人がいたとします。そんな人でも、ナポレオンが馬に跨がって右腕を高々と上げている絵の前では、やっぱり立ち止まるんです。それは、ナポレオンという人物についての知識やイメージがあるから。ほかの作品でも、その知識をちょっとだけ広げてあげれば、面白さが一気に広がります」
毎年800万人を超える入場者数を誇るルーヴル美術館。6割は外国人観光客だというのだから、世界で最も有名な美術館といっていいだろう。
「絵というものにお金と同等か、それ以上の価値があるとしてこの美術館を作ったフランス人は、とても宣伝上手だったんだと思います。もしルーヴル美術館がなかったら、素晴らしい作品も日の目を見ずに埋もれていただろうし、ここまで世界中の人が芸術に熱狂することはなかったでしょう。
歴史的に見れば戦争での略奪の結果だという意見もありますが、特権階級しか見られなかったものが、今は一般の人にも広く公開されている。歴史の転換の凄さを感じてしまいます」
※女性セブン2013年10月10日号