日本の食糧自給率の低さが問題になって久しい。ことの解決は簡単ではないが、若者の中には手料理を楽しむ人が増えているという調査結果も出た。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が考える。
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メディア・シェイカーズ M1・F1総研が行った「若者の食と農に関する調査」(http://m1f1.jp/?p=629 )の結果が面白い。この壮大なテーマに対して、20~30代の独身・一人暮らしの男女各250人(n=500)に限定してインターネット調査を行うという企画自体もさることながら、「食意識の高い若者」が多いという結果もまた興味深い。
意外なことに、「ほぼ毎食料理をする男性」が16.8%、6人に1人以上いるという。さらに会社に自分でつくった弁当を持っていく「弁当男子」も13.2%存在する。「そんなに!?」とも思えるが、こうした行動はコミュニティごとに偏る傾向が強い。自分の周囲では見聞きせずとも、世間で流行っているものなどざらにある。
この調査からは若者の「食意識の高さ」がそこかしこに伺える。8月に発表された日本の食料自給率は前年と同じく39%だった。この数字に対して、調査対象全体の71.2%が「上げたほうがいい」と考え、60%以上が「食料自給率の改善のために自分が役立てることを知りたい」「改善につながる協力をとにかく自分も行いたい」と回答。さらに実際に「国産食材を利用する」「地産地消を心がける」など、全体の65.2%が自給率向上のための行動を起こしているという。
ただし、この調査結果に添付されているリリースで、九州大学大学院農学研究院助教の佐藤剛史氏も指摘しているように「国産の農作物を買い、自炊すれば食料自給率が劇的に上昇するかと言えば、そうではない」。少なくとも現状では家畜用の飼料は、外国からの輸入頼み。畜産物の自給率は飼料の自給率に左右されるため、極端に言えば、国産の家畜ばかり食べたところで、自給率が劇的に上がるわけではない。若者の「自給率向上のための行動」は自給率アップにつながっていないのだ。
もっとも自給率は1種類ではない。前出の39%という数字はカロリーベースの数字であり、生産額ベースとなると68%に跳ね上がる。またカロリーベースで見ても、「廃棄分」を計算に入れずに計算すると食料自給率は50%以上になる。
もっともどういう計算をしたところで、先進国のなかでも日本の食料自給率が低いことに間違いはないし、低いよりは高いに越したことはない。不思議なのは、農林水産省による自給率向上キャンペーンはこの数十年続けられてきたのに、食料自給率が右肩下がりなこと。そして「食意識が高い」若者にすら自給率の正体が届いていないことだ。
米は「自給率向上」にはもっとも寄与できる食べ物だ。おりしも秋は新米の季節。外食派であっても、たまにはごはんとおかずの詰まった弁当を持っていくという楽しみもあっていい。