COPD(慢性閉塞性肺疾患)はタバコなどの有害物質を長期に呼吸することで炎症が起こり、日常動作での息切れや肺の炎症、栄養障害、下肢を中心とした筋肉の機能障害などが起こる。タバコ病ともいわれ、大規模疫学調査研究では潜在患者が530万人(2001年)となっている。現在、日本人の死亡原因の9位だが、2020年には3位になるという予測もある。症状が進み肺胞が破壊されると治らない。
治療は気管支拡張や抗菌剤、ステロイドなどによる薬物治療とともに、呼吸リハビリが欠かせない。スクワットなどの運動を継続することで、息切れに対する耐性をアップさせるだけでなく、下肢の筋力向上による運動能力や健康状態の改善も行なう。国立病院機構茨城東病院リハビリテーション科の稲村真治理学療法士に話を聞いた。
「呼吸リハビリはCOPDの進行を遅らせ、日常生活を楽にするためには欠かせません。しかし、患者さんはちょっとの動作でも息切れが起こり苦しいので、継続させるためのモチベーションを持たせるのが大変です」
息切れの度合いは10段階で表わされ、ガイドラインでは5段階の「大変息苦しい」と感じるところまでリハビリを実施するよう指導している。しかし、そこまで我慢できる患者は多くない。そこで息切れをできるだけ少なく運動効果を挙げるために、WBV(全身振動運動器)を利用した呼吸リハビリの臨床研究をリハビリテーション科の稲村、山田将夫理学療法士と伊東光修主任の3人で実施した。
WBVは旧ソビエトが無重力で活動した宇宙飛行士の筋力アップのために開発した運動器具で、円形の器具の床面に長方形の板が置かれ、中央の0を基点にシーソーのように上下に動く。この上下運動により筋肉は伸ばされたら縮むという伸張反射をするので、短時間で運動能力向上が期待できる。振動数は1秒間に20回、20ヘルツから24ヘルツくらいで行なう。
「臨床研究では約40分間の呼吸リハビリのなかで、床の上で行なう通常群とWBVで行なう群に無作為に分けて実施しました。膝を曲げて腰を少し落とす基本姿勢を1分、その後スクワットを2分、踵の上げ下げを2分といった運動を週に2回、24回実施して結果を比較したところ、WBV群の方がより改善が見られました」(稲村理学療法士)
効果判定は6分間の歩行距離の比較を行なった。WBV群では313メートルから382メートルに伸びたのに対して、通常群では450メートルから481メートルとWBV群のほうが有意だった。さらにCOPDの健康状態を評価するセントジョーンズ質問票の結果は、WBV群の「症状」は62.4から42へ、「活動」は58.3から39.3へと改善しているが、通常群では有意な改善が見られなかった。
WBV利用は強い負荷のないリハビリとして普及が期待される。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2013年11月8・15日号