患者は医者を選べるが、医者は患者を選べない…。そんな言葉が頭をよぎる、トホホなエピソードを46才の医師が語る。
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深夜、救急車のサイレンとともに慌ただしく運ばれてきた初老の男性患者。真っ青な顔をして“便器にいっぱい吐血しちゃったんです。それも、真っ黒な血だったから、おれ、もう長くないかもしんねぇなぁ…”と、背中いっぱいに哀愁を漂わせ、往年の銀幕スターよろしく、悲劇のヒーローに入り込んじゃって。
さらに、“おれ、酒に溺れて家族もみんなバラバラになっちゃったしな。先生、おれみたいなどうしようもない男は血ィ吐いてとっととあの世にいっちまえってか、ハッハッハッ!”と、ひとり芝居が延々と続くなか、救急隊員が小走りに走ってきてひとこと。
“先生、血液じゃありませんでした。チョコレートです”。どうやらオジサン、行きつけのスナックで出されたチョコレートをしこたま食べて気持ち悪くなったらしい。
ふと見ると、さっきまでのあの名演技はどこへやらで、やたらとモジモジ。まあ、年に数回は、こういった患者さんがやってきますね。
※女性セブン2013年11月28日号