女性の肌感覚はいたって正直だ。「米国の令嬢」はどう映っているだろうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、指摘する。
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“スゥートキャロライン”ケネディ駐日大使が動き始めました。被災地の小学校で絵本を読み聞かせ、バースデーケーキの蝋燭をにこやかに吹き消す。その親しみ深い言動で、ハリウッドスター並みの好感度をゲット。
父はジョン・F・ケネディ、母はジャクリーン・ケネディ。名門政治一家の出身で、有名大学を卒業し、母親で作家で弁護士。つまりカンペキな女性。まずは憧れも含めての大歓迎、といったところでしょうか。
その彼女がスピーチする映像を見ると、なぜかとても「新鮮」な印象を抱いてしまうのです。いったいどうして?
自信に溢れた言葉のせいなのか、父ケネディに似た顔つきのせいか。じっくり観察してみると、いやいやそうではない。「新鮮さ」は、彼女の「顔の皺」に起因している、ということに気づきました。
幾筋もくっきりと刻みこまれた、頬のシワ。目元のシワ。眉間のシワ。おそらく日本のテレビ放送で女性のシワがここまではっきり見えること自体、珍しい。それゆえの新鮮さ。
彼女のシワは巷でも話題に。
「女の人は美しさとかじゃない。中身でしょ、生き方でしょっていうことを、あのシワを見ると彼女から言われている気がする」
と、化粧コテコテのファッション評論家までがコメントしていました。ケネディパワー、あっぱれです。
そんなケネディさんのシワを見て、私はある人を思いおこしていたのです。視聴率40%超、話題をさらったあのドラマ、「半沢直樹」。物語の中で伊勢島ホテル専務・羽根夏子役を演じた、倍賞美津子さん。彼女もそう。頬に幾筋もの深い皺が刻まれていた。日本の有名女優としては、とても珍しいことに。
「これまで体験してきたことすべてが今の私を形作っている。シワ1本にも、笑ったり泣いたりしてきた私の人生が刻まれている」と語る賠償さんに“カッコイイ”と大絶賛が。「私もあんなふうに年をとりたい」という声が上がりました。これは、ドラマの制作者もスポンサーも想定していなかった、意外な反響だったのでは。
アンチエイジングが幅を効かせる日本では、そうです。年齢を感じさせないプロポーション、お肌の手入れにエネルギーを注ぐ中年女性、「美魔女」が勢いづいています。ケネディさんや賠償美津子さんは、さしずめ、「美魔女」の正反対の場所に立つ。老いをマイナスには捉えず、ありのままを誇示している、という意味で、「美魔女」に対して「健やか魔女」とでも言うべきでしょうか。
ケネディさんは駐日大使という大役を担う人。顔のシワだけでなく、脳のシワの方も問題にしたいもの。 初の講演では中国の防空識別圏設定をまっこうから批判し、舌鋒の鋭さを披露。一方で、沖縄地元民が猛反対する基地問題については「辺野古が移設先として最善」と、躊躇なく平然と言い放つ。
こじれてきた基地問題。自然環境・生活環境の破壊という面からも危惧される大規模な埋め立て。地元・名護では反対意見が99%を占めるというその中で……。人種差別廃絶を目指して公民権法を提案したのは父のケネディ氏でしたが、娘・ケネディの耳に沖縄の叫びは届くのかどうか。
彼女の脳のシワは、はたして顔に刻まれたシワほど「健やか」なのかどうか。今後、日本人に対してそのシワが有効に使われるのかどうか。今のところまったく未知数です。