東京都知事だった猪瀬直樹氏は、医療法人「徳洲会」グループから資金の提供を受けた問題で、都政を混乱させた責任をとると2013年12月19日に辞職を表明し、24日に正式に辞職した。新しい都知事を選ぶための東京都知事選挙は2月9日の予定だ。
猪瀬氏は与党の自民党や公明党から「政府の言うことも、都議会与党の言うことも聞かない」(自民党都連幹部)と煙たがられていた。そこに徳洲会からの5000万円資金提供スキャンダルが発覚すると、都議会では野党ではなく、自民党が疑惑追及の先頭に立って猪瀬氏を追い詰めた。
とどめを刺したのは官邸の動きだった。高村正彦・自民党副総裁が猪瀬氏に辞任を勧告し、安倍首相が側近で都議出身の萩生田光一・総裁特別補佐に都議会の動向について情報収集を指示した翌日、猪瀬氏は知事辞任を表明した。
奇妙なのは、その途端、徳洲会からの資金提供問題の真相は何も明らかになっていないにもかかわらず、都議会が疑惑追及のために開催する予定だった強い調査権を持つ「百条委員会」の設置を見送ったことだ。それは、自民党にとって本当は疑惑解明など二の次で、“猪瀬おろし”そのものが目的だったことを物語っている。
自民党を筆頭に与野党が猪瀬スキャンダル追及に盛り上がったのは、強大な権限を持つ都知事の座に言うことを聞く人物を送り込みたいからだ。 すでに2020年の東京五輪に向けて、選手村や競技場の建設などインフラ整備の計画が目白押しで、大きな政治利権が渦巻いている。
※SAPIO2014年2月号