和食のユネスコ無形文化遺産への登録が決まり、日本の食文化に注目が集まっている。一方で、2013年は多くのホテルなどで食材・メニューの偽装が発覚した。「こっそりコストカットするのは簡単です。しかしそれは結果としてお客様を減らすことになる」と語るのは、セルフ式うどん店をチェーン展開する「はなまる」の成瀨哲也社長だ。
同社は昨年3~8月期の営業利益で前年同期比67%増を達成。グループ会社の吉野家を初めて上回り「うどんが牛丼を抜いた」と話題になった。同氏が業界を覆う偽装問題を論じる。
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はなまるの経営理念は常にお客様の声に耳を傾けて「本当」「本物」「正直」を貫くこと。従業員にはこれを新人研修から徹底して叩き込んでいます。もちろん理念だけではダメで、行動を伴う必要があります。
昨年相次いだ飲食業の食材・メニューの偽装表示はそうした理念の対極にあるものです。同業者としての経験から、それらは組織が内向きになることで発生すると考えられます。
多くのケースできっかけとなったのは、株主や親会社からの収益へのプレッシャーではないでしょうか。現場から離れたところで、親会社などから「来期はどの程度見込めるか」と増益を求められる。
上場企業では株主のプレッシャーも強いから、経営陣は当然利益を確保しようとする。その結果、現場はお客様に対してではなく、親会社や株主のために“真面目に”頑張り過ぎてしまう。
利益を増やすのは簡単です。例えばうどんなら、麺を少し短くしたり、天ぷらのサイズを少し小さくしたりすればコストはすぐに抑えられる。極論すれば、お客様に告知しなくてもできます。しかし、それをやってしまうことで感覚が麻痺し、最終的には「もっと安いものを使おうか」となる。それは偽装などの要因になるのではないでしょうか。
加盟店が急増した2003年ごろの一時期、はなまるも「利益を上げたい」という内向きの意見に押され、天ぷらのサイズを小さくするなどして粗利額を確保したことがあります。すると少しずつ客足が遠のき、閉店する店舗も少なくなかった。ビジネスたるもの嘘があってはいけない。お客様が不利益を被ることをすれば、必ずその報いを受けるのです。
昨年11月、はなまるうどんは「かけ(うどん)小」の価格を105円から130円に値上げしました。原材料の高騰、円安による輸入価格上昇が重なり、ついに価格維持が困難になったのです。「一杯105円」は創業期から続く我が社の看板商品。
そのため「麺を短くして価格を維持してはどうか」など、社内で侃々諤々の議論がありました。しかし結局、経営理念に立ち返って、お客様に「原料が上がっているので値上げします」と正直に伝えることにしました。
※SAPIO2014年2月号