芸能

下手な役者がやる芝居は興奮したものばかりと綿引勝彦が解説

 池波正太郎の時代小説『鬼平犯科帳』シリーズは、小説だけでなく二代目中村吉右衛門が主演するテレビシリーズも20年以上続く人気時代劇だ。その「鬼平」に第1シリーズから同じ約でレギュラー出演する俳優の綿引勝彦氏に聞いた、「感情を入れる芝居」についての言葉を映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。

 * * *
 綿引勝彦の代表作といえば、テレビシリーズ『鬼平犯科帳』(1989年~、フジテレビ)だろう。今もスペシャル版として続く人気時代劇で綿引は、かつては大盗賊の首領だったが鬼平(中村吉右衛門)に諭されて密偵として活躍することになる《大滝の五郎蔵》を演じている。

 五郎蔵という男は喜怒哀楽を決して表に出すことはない。それでいて、その裏側にはいつも、どこか切なげな感情が見え隠れする。そこには、綿引の役者としての強いこだわりがあった。

「『鬼平』では蟹江敬三さんも梶芽衣子さんも僕も、芝居はどこか控え目ですよね。報告者の役なので、その務めとして感情を出さないで事柄だけを伝えることを大事にしています。もちろん感情は入りますよ。入るんだけど、むき出しにはしない。

 演劇の世界には『感情は後払い』という言葉があります。下手な役者がやると興奮した芝居ばかりやってしまいますよね。そうじゃなくて、感情というのはいつも後ろになくてはいけないんですよ。
 
 誰だって、怒りたくても実際には怒らずに我慢するでしょう。いろんな言葉を選びながら、感情を抑える。それは演劇も同じなんですよ。喋るっていう行為には必ず裏に感情があって、今言っている言葉が必ずしも正しいとは限らない。それが演劇の基本なんです。

 役者の我をあんまり出さないで、その役が生きるようにすることしか考えていません。僕が生きるんじゃなくて、その役がその画の中で躍っていればいい。顔が映らなくてもいいんです。僕の演じる音──セリフの音が躍るように、視聴者の耳に心地よくなだれ込むように喋る。それが大事なんですよ。無機質ではなく、それでいてうるさくなく、静かに視聴者の耳に入っていく。それだけですよ」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。

※週刊ポスト2014年3月7日号

関連記事

トピックス

大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
「What's up? Coachella!」約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了(写真/GettyImages)
Number_iが世界最大級の野外フェス「コーチェラ」で海外初公演を実現 約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン