芸能

映画撮影でNGを連発した・加藤武 三船敏郎がくれた水に感激

 教職を辞して俳優の道を志して文学座に入団した直後から、俳優の加藤武は世界的巨匠の黒澤明監督の映画に出演し続けた。クロサワ映画で共演した、世界のミフネこと故・三船敏郎氏と共演したときの思い出について加藤が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。

 * * *
『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』『悪い奴ほどよく眠る』『用心棒』『天国と地獄』……、加藤武は1950~1960年代、黒澤明監督の映画に数多く出演している。まだ俳優人生を始めて間もなかった当時の加藤にとって、世界的巨匠の撮影現場は過酷なものであったという。

『悪い奴ほどよく眠る』では、復讐のために汚職事件を暴こうとする主人公(三船敏郎)の親友役に抜擢されている。

「監督もびっくりしたろうね。こんな下手な奴とは思わなかったんじゃないかな。セリフを喋れば怒られてばかりいた。

 車のディーラーの役なんだけど、当時では最先端のモダンな職業だ。食事といえばかけそばばかり食べていた研究生の私に生活感が出るわけがない。リラックスした動きができないんだ。『顔が強張ってる』って、何べんNGになったか。三十回まで数えたけど、あとは分からなくなったくらいだった。

 そのシーンでは私の後に三船さんが出ることになるんだけど、何もいわず待ってくれていた。三十何回目かのNGが出て、喉がカラカラになって喋ることも私はできなくなった。すると三船さんが黙って水を渡してくれた。あの水は黄金の水だった。

 凄く思いやりのある人で、セットでこっちが突っ立っていると腰掛けを持ってきてくれたりもする。一番尊敬している俳優は三船さん。私も、新人が何回NGを出しても嫌な顔をしないように心がけている」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。

※週刊ポスト2014年3月21日号

関連キーワード

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン