現在の日本には「健康雑誌」というジャンルで定期刊行されている雑誌が14誌も存在する。それだけ健康に関心を持つ国民性とも言えるが、このジャンルの雑誌は、どのようにして誕生したのだろうか。
高度成長期以降豊かな暮らしになる一方で、1974年に健康雑誌『壮快』を創刊した牧野武朗(1923-2012)は、新しい健康問題や病気が起こり、健康に対する国民の関心も今後急速に高まるだろうとみていた。
健康雑誌では、時代の流れとともに取り上げる傾向も変遷し、1980年代半ば頃までは、西洋医学にはない健康の秘訣を・中国五千年の歴史・に求める傾向が強かった。1980年代後半からは、口コミで広がっていた民間療法(健康法、健康食品)が主流で、そうした民間療法が健康雑誌にとりあげられると一気に需要が拡大し、社会現象と呼べるほどのブームが起こったこともあった。
「『健康』史上、最大のヒット」と、同誌5代目編集長だった久次米義敬(くじめ・よしのり)氏が振り返るのが、1993~1994年に大ブームとなった野菜スープだ。5種類の野菜(大根、大根菜、人参、牛蒡、椎茸)を1時間以上煮込んでできたスープを飲むことで、あらゆる病気を改善できるという。
『健康』1993年8月号で〈有名人がひそかに飲み、頻尿、腰の痛み、肌あれ、痔まで治している「野菜スープ」の秘密〉と打って特集したところ、大きな反響を呼んだ。同年10月号から翌年10月号まで毎月特集を組み、赤塚不二夫、内海好江、竹村健一、丸茂ジュン、坂本冬美などの著名人が実践者として誌面に登場し、羽田孜、渡辺美智雄といった政治家にも愛飲者がいると紹介された。
その間、1993年10月に単行本『元祖病気治し汁 野菜スープが効く』(主婦の友社刊)が出版されると、なんと初版50万部があっという間に売り切れ、最終的な発行部数は200万部に達した。他社もこの大ブームを逃す手はないと追随して関連本を出版した。
1994年6月に提唱者が医師法違反などで逮捕されたのを契機にブームは急速に終息に向かったが、効能が全面的に否定されたわけではなく、今も『健康』編集部には読者から作り方や飲み方について問い合わせがあるという。
※週刊ポスト2014年4月4・11日号