孫の頼みであれば、どんなことも応えたいと思うのが、おじいちゃんというものだが、時にはおかしな方向に行ってしまうことも。埼玉県に住む女性Kさん(55才)が、超がつくほどマジメな夫(61才)のエピソードを披露します。
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しばらく前のこと。「おじいちゃん、面白いお話して」と保育園児の孫が、ひざにのってせがんできたの。それまで満面の笑みだった夫は「…面白いお話」と言ったきり黙り込んでしまった。
長いこと経理畑を歩いてきてマジメだけが取り柄。面白い話なんて考えたこともないはず。すると孫は「じゃ、いいや~。おじいちゃん、つまんな~い。おばあちゃん、あそぼ」と夫から離れたから、傷ついたのね。
孫が帰るとすぐ「本屋にいってくる」と飛び出していったわよ。で、夫が買ってきたのが“古典落語入門”。そして暇さえあれば「じゅげむじゅげむ…」と落語の丸暗記をしはじめたの。
「お父さん、孫は平成20年生まれよ。熊さん、はっつぁんは通じないわよ」
私は必死で止めたんだけど、
「時代を超えるから古典なんだ。まあ、見てろい」となぜか自信たっぷり。いっぱしの芸人気どりで扇子まで使って。
そして、春休みになった孫が遊びにきていよいよお披露目の日。「面白い話をしてやるぞ~。ゴホン! えーと。じゅげむじゅげむ~」と懸命に話すと孫はぽか~ん。
ほんのさわりだけで「おじいちゃん、何言ってんの?」って言われてんの。そこでよせばいいのに「この話の面白さはな、このじゅげむっていう…」と演目の説明をし出したから、孫は部屋から出て行っちゃったわよ。
「そうか。じゃあ、次は違う話を覚えようかな」ってそういうことじゃないと思うわ。
※女性セブン2014年4月10日号