政府や霞が関が「アベノミクスで景気は上向いている」と強弁し、成果を喧伝する根拠は、「株価やGDPの上昇」にある。
確かに日経平均株価はこの1年間で約2500円上昇した。GDPは名目、実質ともに5兆円以上の伸びを見せている。アベノミクスという経済政策・理論の上では、間違いなく「勝ち」といえる。
だが、それが国民にとっての「勝ち」とはならないのが不幸なのだ。日銀は「黒田バズーカ」とよばれる異次元金融緩和によって通貨供給量を約67兆円増やして景気の底上げを図った。だが、実際の民間貸出額はその半分の33兆円しか増えていない。“増刷”したお札は、一般国民向けには半分も流通していなかったのだ。
しかもその間、貿易赤字はマイナス7兆円からマイナス11兆円へと約4兆円悪化した。量的緩和で円安が進めば輸出産業が復活するという青写真は脆くも崩れ、むしろ国富の海外流出を後押ししただけだった。
国の借金も重くなった。安倍首相は「景気が回復すれば税収が増える」と、2020年までに歳出と歳入を均衡させる財政再建目標を掲げたが、実際は、景気対策で税収が増えた以上の予算をバラ撒いているため、借金は減るどころか45兆円も増えている。
そのしわ寄せは国民生活に襲いかかる。埼玉学園大学経済経営学部教授の相沢幸悦氏はこう指摘する。
「消費者物価指数は安倍政権発足後に1.4ポイント上昇したが、実はその大半は光熱水費の上昇によるもの。つまり円安によって原油などエネルギー価格が上昇してインフレを引き起こしているに過ぎない。電気代や水道代などの公共料金が上がっても国内産業の活性化に繋がるはずもない。
アベノミクスが目指していたのは、経済活性化により、賃金が上がり、消費者がモノを買う。それで物価が上がり、また賃金が上がるという好循環だが、賃金が抑制されている中、モノの値段が上がっても個人消費は活性化しない。今起きているのは“悪いインフレ”の典型といえる」
そうした状況を物語っているのが、当の政府(内閣府)が実施する景気ウォッチャー調査(景気判断DI)だ。アベノミクスが実質的にスタートした1年前から0.2ポイント減の53.0ポイント。それでも安倍首相らは「景気は上向いている」と言い張るのだから矛盾も甚だしい。
※週刊ポスト2014年4月18日号