歯が健康な人はあまり意識することはないが、「噛む」という行為は、それが栄養摂取などに繋がるだけに非常に重要だ。しかし歴史上の偉人の中には、「噛めない」ことに悩まされた人物もいる。
80歳で20本の歯を残す試みが「8020運動」。現在の日本人の残存歯数は45~49歳で27.1本だが、加齢とともに次第に減少し、85歳以上になると8.4本にまで減ってしまう(厚労省「平成23年歯科疾患実態調査」)。
この「8020」に対して、「5701」、つまり57歳で歯が1本という可哀想な偉人がかつてアメリカにいた。米国初代大統領のジョージ・ワシントン(1732~1799)だ。歯科河原英雄医院の河原英雄院長が、彼の口の中の悲惨な状態を説明する。
「当時は口腔ケアの習慣がなく、口腔内が不衛生だったのでしょう、大統領就任時の57歳の時には、ワシントンの歯は左下の前歯1本しか残っていませんでした。そのため、彼は動物の骨に死んだ人の歯を植え込んで作った『義歯』を装着していました。
若い頃のワシントンは精悍な顔をしていたと推測されますが、歯を失った頃の肖像画は、眼にも力がなく、元気を失っているように見えます。口元やその周辺にも締まりがありません。歯磨きの習慣がなかったワシントン大統領は、噛めない、話せない、笑えないという三重苦の状態だったと思われます」
※週刊ポスト2014年4月25日号