沖縄県の石垣市・与那国町・竹富町の1市2町は、八重山地区採択協議会をつくり、これまで同一の教科書を採択してきた。だが沖縄県竹富町が八重山地区の採択に反した教科書の使用を決めたことが波紋を呼んでいる。
平成23年の夏の採択で同協議会は中学公民教科書に育鵬社版の使用を決定。ところが竹富町はこれに従わず、東京書籍版の使用を決め、今年度もその方針を継続している。これが採択地区で同一の教科書を使うと定めた教科書無償措置法に違反しているとして、文部科学省は今年3月に竹富町に是正要求を出したが、竹富町側は応じない構えだ。
この問題の根本にあるのは、育鵬社版と東京書籍版の“中身”の違いであるとわかる。麗澤大学教授で、日本教育再生機構の理事長を務める八木秀次氏が指摘する。
「これまでの教科書は日教組の主義主張がストレートに表われていた。それでは問題があるとして10数年前に扶桑社が新しい歴史教科書を作り始め、現在はその子会社である育鵬社が教科書を作っている。3年前、八重山地区ではこの育鵬社版の公民教科書を採択したわけですが、教職員組合の力が強い竹富町がこれに猛反発している」
実際に、中学の歴史教科書の記述内容はどれほど異なるのか、南京事件の記述を比較してみる。
育鵬社版『新しい日本の歴史』では日中戦争の項目のなかで〈日本軍は12月に首都・南京を占領〉と書き、注釈で〈このとき、日本軍によって、中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)。この事件の犠牲者数などの実態については、さまざまな見解があり、今日でも論争が続いている〉と解説している。
これに対し東京書籍版『新しい社会 歴史』は、本文で〈女性や子どもなど一般の人々や捕虜をふくむ多数の中国人を殺害しました(南京事件)〉と書き、さらに注釈で〈この事件は、南京大虐殺として国際的に非難されました〉と、育鵬社にはない“虐殺”という言葉を使っている。
「南京事件のような学説上の対立がある問題については、A説のみ、B説のみの記載でも検定を通ってしまいます。しかし、子供が使う教科書はひとつなので、どちらかの説に偏った記述は好ましくない」(八木氏)
※週刊ポスト2014年5月2日号