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腫れたケロイドなどを治療 効果が期待の「メカノセラピー」

 人間の体には気圧や静水圧、浸透圧、重力など外から物理的刺激がかかっている。細胞はこれら物理的刺激の影響を受けて、その機能を維持しているという考え方がメカノバイオロジーで、これを医療分野に応用したのがメカノセラピーだ。もともと機械を使って筋肉や骨を動かすリハビリテーション分野で使用されている言葉だが、現在は広く物理的な力を調整する医療と定義されつつある。

 実際に臨床に導入されているのが、ケロイドや肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)の治療だ。手術や外傷の傷跡は、特によく動かす部分で赤くミミズ腫れになりやすいが、その理由がよくわかっていなかった。それを解明し、治療方法を確立した日本医科大学付属病院形成外科・美容外科の小川令准教授に話を聞いた。

「メカノバイオロジー研究の一環で、ケロイド周辺の皮膚を横方向に引っ張るシミュレーションモデルをパソコンで作成しました。すると、実際のケロイドと同じ形が再現され、ケロイドの特異的な形の原因は両側から過剰に引っ張られたことによる炎症のためだとわかりました」

 例えば腹部の手術で縦方向に切った場合、重力や縦方向に走る腹筋の動きで傷は上下に引っ張られる。そのため傷の両端に過剰な力がかかり、その影響で細胞が増殖し、組織が線維化して盛り上がる。メカノセラピーでは、過剰に引っ張られる力の分断や弱めることを行なう。具体的には傷跡の場所によって、力のかかり方が違うので、場所ごとに影響を考えて切開の方向や縫合のやり方などを工夫する。

 昔から外科医は、術後にできるだけ安静にして傷を動かさない方が早く治ることを経験で知っていた。これこそ細胞に過剰な力をかけない、メカノバイオロジーの考え方に基づいたもの。メカノセラピーは、皮膚を中心にした形成外科分野で応用されているが、他科での研究も進んでおり、臨床応用が待たれる。

■取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2014年5月9・16日号

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