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【書評】小説家が書く「日記」は本当にフィクションなのか?

【書評】『東京日記4 不良になりました。』川上弘美著/門馬則雄絵/平凡社/1300円+税

【評者】嵐山光三郎(作家)

 小説家が書く『日記』は当然ながらフィクションであるけれども、まるっきり嘘ばかり書いても読者は納得せず、引っ越しをしたことも文学賞の選考会も大阪の黒門市場でうどん屋に入ったことも事実だろう。だって日記なんだからね。引っ越してからはじめてぜんそくになったことも本当だろう。

 二〇一〇年五月から二〇一三年の身辺雑記(ぼやぼやと生きる日々の記録である東京日記=あとがき)は、入院と手術があり、嘘日記であるはずがない。部屋を片づけたものの、ふたたびじわじわと散らかってしまったことを「片づけ界」ではリバウンドといい、「リバウンド川上」と名乗ろうかと吟味して、加齢臭と古本の匂いは同じ成分であると聞いて、びっくりする。私もそれを知ってびっくりした。

 十二月の予定が空白、空白、空白、でいよいよ明日は大晦日、という記述もほぼ事実であろうと思うし、「ただでさえ少ない友だちをこれ以上減らさないこと」を新年の目標とするシーンは三回読みなおしてしまった。

 川上弘美の『東京日記3 ナマズの幸運。』にはフィクションがあって、そこがグラグラと面白いのであるが、この『東京日記4 不良になりました。』もタイトルにつられて読み出すことになる。川上さんが「不良になりました」といっているのだから、川上ウォッチャーとしてはその真相をたしかめたくなる。川上さんのこどもが小さな声で「かあさん、不良になったんだ」とつぶやいたという。

 川上さんは嘘つきではありません。そしてたくさんの短い夢をみる。おぼれている夢。落ちてゆく夢。踏まれている夢。追われている夢。沈んでゆく夢。どの夢のバックにも、ザ・ピーナッツの「ウナ・セラ・ディ東京」が高らかに流れている。ただし、これは八月某日限定の夢である。

 小説家の日記は、ふわふわとする現実世界を浮遊する幻覚症で、妄想がビールみたいに泡をたてていますから、飲んだ人は「居酒屋 川上」のカウンターで上等な時間を過ごすことができるのです。

※週刊ポスト2014年5月23日号

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